このキーワード解説では、これまでに何度かSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標のことで、2030年の達成を目指す17のゴールと169のターゲットから構成されている)を取り上げてきた。
最初は「普及するのかな?」と懐疑的であったが、さすがに国連主導でPRしているだけあり世界中に浸透して、ビジネスでもSGDsを題材に商談を行うまでになっている。さて、SDGsとともによく聞く単語(略語)に、ESGがある。これは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉だ。
ESG関連ワードの中でも、E,S&Gという三つのポイントから企業を分析して投資を行う「ESG投資」が注目されている。ESGは、非財務の情報でありながら企業へ投資する際に利用され、より良い経営をしている企業を表す指標とされている。これまで企業価値を測る方法は業績や財務状況の分析ばかりであったが、企業の安定的かつ長期的な成長には、環境や社会問題への取り組み、ガバナンスが少なからず影響しているという考え方がESG投資で、世界的な潮流となっている。現状の財務状況だけでは見えにくい将来の企業価値を見通すうえで、ESGの重要性が認識されているのだ。ESGの内容を表1で具体的に示しているので、参考にしていただきたい。
環境(Environment) | 社会(Social) | ガバナンス(Governance) |
・二酸化炭素(CO2)排出量の削減 ・廃水による水質汚染の改善 ・再生可能エネルギーの使用 ・生物多様性の確保など |
・職場での人権対策 ・ダイバーシティ ・ワーク・ライフ・バランスの確保 ・労働災害対策 ・児童労働問題の改善 ・地域社会への貢献など |
・業績悪化に直結する不祥事 (政治献金や賄賂を含む)の回避 ・リスク管理のための情報開示や 法令順守 ・社外取締役の活用など |
ESGの意識が薄い企業はリスキーで、長期的な成長が期待できないと考えられており、なるべくESG意識の強い企業へ投資しようということになる。つまり、ESG投資とは「ESGに配慮した企業に対して投資を行うこと」で、2018年における世界のESG投資額は3100兆円と、世界の投資額の3分の1を占めている。
日本企業は昔から、近江商人の「三方よし」的な教え(哲学)の下に商売をしてきたので、西欧に見られるキリスト教的倫理観から出来上がってきたSRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)などよりもなじみやすいかもしれない。ESG投資に対してSRIがあり、基本概念は似ているが、SRIは経済状況以外での社会的・倫理的な価値観に基づいて投資先を選び、投資を行う方法であるため、企業に対する社会の期待を投資面で反映させたものだといえる。1920年代にアメリカのキリスト教会が資産運用を行った際、倫理的な観点から特定の投資対象を排除したことがあり、SRIはESG投資と似ているものの、同意ではない。
ESG投資では、社会問題に対する要望が三つの観点(ESG)に集約されている。そして、SRIが倫理性を重視しているのに対して、ESG投資は「社会と環境への取り組みが企業の利益を生む」という考え方を含んでいる点に違いがある。資本主義体制下で企業活動を行っている人間にとっては、SRIや公益資本主義(JAGATでも取り上げたことがあるが、これを理解するのには労力を要する)などよりもスンナリと受け入れられるのではないか?と考える。
しかし、SDGsやESGが大事だということに異論はないが、どうも曲解されて、「ペーパーレスの推進(紙=悪者という構図)」だとSDGsやESG推進者が短絡的に考えてしまっているのが残念だ。これに関しては、異論・反論、言いたいことは山ほどある。企業がESGに注目して日々の事業活動を展開することが、結果としてSDGsの目標達成につながっていくという関係性もある。「風が吹けば桶屋が儲かる」よりも直接的に関係していると思う。
ちなみに、ESGという概念が生まれたのは、2006年に当時の国連事務総長だったコフィー・アナン氏が金融業界に対して提唱したイニシアチブ「PRI(責任投資原則)」の中で、ESGという言葉はここで初めて使われたとされる。このPRIの6原則の要旨は下記のとおりである。
①投資先を選ぶ際に投資先のESGの状況を考慮する
②投資先にESGの観点で経営を強化するよう求める
③投資先にESG課題についての適切な開示を求める
④資産運用の間で、この原則が受諾・実行されるよう働きかける
⑤この原則の署名機関の間で協働する
⑥この原則の実行状況や進捗状況を報告する
(専務理事 郡司 秀明)