中小企業とデザイナーとの協業による事業創出を目的とする東京ビジネスデザインアワードは参加者のレベルが年々向上して事業化の実績も重ねており、その中には印刷関連企業の姿もある。
東京都が主催し、公益財団法人日本デザイン振興会が企画・運営する東京ビジネスデザインアワード(以下、TBDA)は、2021年度で10回目を迎えた。
参考:東京ビジネスデザインアワードとは >
アワードでは、都内に事業所を持つ中小企業を対象に、技術・素材を募集し、実現性や成長性などが期待できるものをコンペティションのテーマに選出し発表。国内でクリエーティブに関わる個人もしくはグループを対象に、用途開発を軸とした事業提案を募集・審査する。
デザインと事業の仕組みが優れた提案にテーマ賞を授与し、事業化に向けての協議や試作を開始する。
さらに、最終審査で最優秀賞、優秀賞を選出する。
TBDA事務局はアワード終了後1年間、最優秀賞、優秀賞のほかテーマ賞を受賞した提案全てについて知的財産、デザイン契約を含めた事業化のサポートを行う。
2021年度のアワードは、テーマ12件に対して150件以上の提案が全国のデザイナーから寄せられ、11件がテーマ賞として選出された。
最優秀賞は「特殊印刷加工技術を応用したプロダクトと実験ブランド開発」[歌代 悟/新晃社]が受賞した。
新晃社はKaleido Plusインキによる広色域印刷、UV印刷機による擬似エンボス加工など多様な特殊印刷加工技術を駆使して、思わず手に取りたくなる印刷物を提供することに努めてきた。社員が自発的に技術実験を行うなど探究心旺盛であるが、一般消費者にアピールする術を持っていなかった。そこで自社に眠る可能性を引き出すためTBDAに応募した。
同社とマッチングした歌代氏は、「印刷加工実験室」プロジェクトを提案し、その第一歩として、折り紙「SAWARIGAMI」の開発に取り組んだ。新晃社は、歌代氏が自社にない発想や可能性を見つけたことや、技術に対して真摯に向き合ってくれたことで発奮し、これまで以上の力を発揮した。試作したパターンの半分以上は、新晃社の現場スタッフが自主的に提案したものだという。
そのほか、印刷関連企業の受賞では、「紙器設計技術を活用したブランディング提案」[SANAGI design studio/協進印刷]、「『愛着と記憶』をテーマにしたプロダクト」[太陽と笑顔/新里製本所]がある。
◀︎ 「紙器設計技術を活用したブランディング提案」[SANAGI design studio/協進印刷] |
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◀︎ 「『愛着と記憶』をテーマにしたプロダクト」[太陽と笑顔/新里製本所] |
2021年度の提案概要・受賞者プロフィール >
コロナ禍を機に業態変革の必要性は増している。中小企業においては、受注体質からの脱却、顧客接点の拡張が共通のテーマだ。
これまでTBDAから数々のヒット商品やアワード受賞商品が生まれている。印刷関連では、2019年度テーマ賞を機に事業化した研恒社の「PageBase」は2021年度グッドデザイン賞を受賞、東急百貨店本店に出店するなどブランド定着に向かっている。印刷・加工技術には消費者を魅了する要素がまだまだ眠っているのである。
TBDAは、企業が優れたビジネスパートナーを得ることで、新たな企業価値を見いだす可能性を示している。
東京ビジネスデザインアワード >
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)
※会員誌『JAGAT info』 2022年3月号より抜粋・改稿