2018年度東京ビジネスデザインアワードの提案最終審査から、最優秀賞、優秀賞を中心に、ものづくり企業が用途開発に取り組む方向について考える。
東京都が主催し、公益財団法人日本デザイン振興会が企画・運営を行う2018年度東京ビジネスデザインアワード(TBDA)の提案最終審査が2019年1月31日に開催された。テーマ賞の授賞式とともに、提案最終審査が行われ、最優秀賞1件と優秀賞2件を選出し、結果発表と表彰式を行った。
TBDAは、使い勝手や見栄えだけでなく、製造計画、販売計画を含めた事業全体のデザインを問う、 現実的で、スケールの大きなアワードである。
企業提案ごとに各1件のテーマ賞を選定し、その全てが事業化を目指す。2018年は8件が受賞した。
テーマ賞から、提案最終審査を経て、最優秀賞と優秀賞が選出される。
今年は最優秀賞にふさわしい提案が2件あり、審査は難航したという。
その一件は、「『立体視・金属調印刷物』を唯一無二の素材にするための事業提案」(株式会社技光堂/今井裕平、林雄三、木村美智子、鈴木杏奈(kenma inc.))、もう一件は「香りの魅力を楽しく学ぶプロダクトの提案」(GRASSE TOKYO株式会社/清水 覚、山根 準、山根芽衣、安次嶺彩香)だった。
TBDAは最優秀賞1件という規定があるため、最終的に前者が最優秀賞、後者は優秀賞となったが、実際の評価は非常に僅差であったという。
なぜそんなに拮抗したかといえば、この2件とも提案レベルの高さはもちろん、提案の性質が全く異なっており、同じテーブル上で比較することが難しかったという事情がある。
BtoC展開から本業のBtoB強化も見据える
最優秀賞の「『立体視・金属調印刷物』を唯一無二の素材にするための事業提案」は、透明樹脂素材への金属調印刷技術を用いたメタルインターフェイス制作とビジネスモデルの提案だ。
透明樹脂に特殊インクで金属調印刷を施し、背面から光を当てると、見た目が金属なのに、光が透過しているように見える。その意外性を生かしたプロダクトを、まずは時計、次に情報量の多いディスプレイ、最終的にはタッチパネルへと展開しようと考えている。
BtoCを展開しながら、本業のBtoBも強くしていくという中長期ビジョンがあり、TBDAが目指す王道と呼べるビジネスモデルである。
新たな市場を創り出す
一方、優秀賞となった「香りの魅力を楽しく学ぶプロダクトの提案」は、香料を配合した絵の具と、絵の具を塗りながら香りの仕組みを学ぶ教本がセットになったプロダクト「kunkun」の提案。
学校教育では、人の五感のうち、図工・美術で視覚を、音楽で聴覚を学ぶ。しかし、香りの仕組み、香りの効果を学ぶ機会はなかなかない。香りの知識をもっと広げることで、人々の生活がより豊かなものになるのではないか。そして香りを積極的に取り入れる消費者が増えることで、アロマ関連業界の振興も図れるのではないか。そんな考えからこのプロダクトが生まれた。
香りと画材、香りと教材という、これまでにない組み合わせによって、全く新たな市場の可能性を拓いたのである。
2つの提案、どちらも、新規事業立ち上げにとって大切な要素を押さえた提案であり、今後の展開が期待できる。
もう一件の優秀賞「灯りと香りで想いを伝えるアロマキャンドルプロダクト」(東洋工業株式会社/中村知美)も魅力的なプロダクトである。
アロマキャンドルと化粧箱、リーフレット、郵送用封筒のセット商品で、炎のゆらぎと香りによる癒しの効果が期待できる。定形郵便に対応しており、誰もが気軽に贈ることができる。個人のカジュアルギフトなどBtoCのほか、企業とコラボレーションしたノベルティグッズ、ウェディングのプチギフトといったBtoBの展開も考えている。実現可能性の高いデザイン提案が評価された。
最優秀賞と優秀賞を含め、テーマ賞8件のいずれもが、事業の展開を通じて、企業の将来像や業界全体の振興までを見据えた提案となっていたのが印象的だった。
受賞してからが本当の勝負
テーマ賞8件は今後、TBDA事務局のサポートを受けながら、製品改良、販路開拓、契約や知的財産権の対策など、事業化のための作業に入っていく。
受賞した提案が必ずしも市場で長く残れるわけではない。審査委員会のコメントでも「これからが本当の勝負だ」という指摘がなされている。
厳しい道のりではあるが、一つでも多くの提案が、市場に出てファンを獲得してほしい。
最優秀賞を受賞した今井裕平氏は、2016年度の受賞提案をベースにしたウェアラブルメモ「wemo」がヒット商品となり、現在海外展開にも乗り出している。
今回の最優秀賞受賞のコメントの中で、「TBDAは今後も続けてほしい。そのためにも、最優秀賞受賞者である自分が、一昨年同様に、真剣に事業化に取り組みたい」と語った。
TBDAは2012年の開始以来、事業化実績を積み上げ、年を追うごとに認知度を増している。それは、東京都の中小ものづくり企業の可能性を示すものでもある。中小企業の存続発展なくして、日本経済の発展はない。
願わくば、全国各地でビジネスデザインのアワードが行われ、新規事業にチャレンジする企業と、新しい価値を生み出すクリエイターとのマッチング事例が数多く生まれてほしいと願う。
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)
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