各種統計やデータが商業印刷市場の大きさと安定を語っている。用紙の出荷量が減っているのに市場が縮小していないのはなぜなのかーーー。ユーザーの変化、メディアの変化、ビジネスモデルの変化の視点を踏まえてデータをもとに考察する。
■広告費が過去最高を更新
電通「日本の広告費2023」によると、日本の広告費は過去最高の7兆3167億円になった。資料を読むと、デジタルメディアの細分化が進んで実態を捉えづらくなるなか、変化に対応して正確に捉えようとしている様子が伝わってくる。様々な既報の通りなので、あまり触れられていないが変化の兆しになりそうなポイントを抑えておきたい。
■ネットの拡大と伝統的メディアの変容
インターネットは全体の46%を占めるに至り、規模が大きくなったこともあって成長率は2020年に次ぐ低さ(7.8%)に低下した。伸びは減速しつつもさらなる普及とともに成長するような推移をたどりそうだ。行動制限の緩和とデジタル化がプラスに働いたのが屋外・交通・雑誌・ラジオ・イベント他といった伝統的ともいえる5つのメディア。タクシーは車内デジタルサイネージ、ラジオはネットラジオの一般化が寄与したように、メディア自体がデジタル化してしまう面もあるし、長期低落してきたので一種のリバウンドの面もある。
■商業印刷の市場規模はいまなお巨大
同レポートは、測定困難だが無視できないメディアとして参考的に商業印刷の市場規模推計を試みている。2021年:1.7%増、2022年:0.3%減、2023年:0.8%増(約1.8兆円)と安定推移し、商業印刷がマスコミ最大のテレビメディア(約1.8兆億円)とならぶ規模を持つことと市場規模が安定的なことを示唆する。メディアごとに推計方法が違うので単純比較はできないが、商業印刷市場がいまなお巨大で商機に満ちているのは疑いの余地がない。用紙需要の減少を捉えて市場規模全体を語ってしまう文脈を見ることがあるが、そのように見るとコロナとインフレとデジタルで変わったマーケットを解釈できなくなる。
■商業印刷市場が縮小しない理由
公的機関の統計もJAGATの調査結果も、同レポートの推計と整合的だ。なぜ用紙の出荷量が減っているのに、主力の一角であるチラシなども減っているのに、商業印刷市場の全体は縮小しないのか。それは、流通小売店などのマーケティング手法が変わっていることへの対応が商機になっていることもあるし、印刷会社のビジネスモデルの変化もあるし、かつてない価格と印刷会社数の変化も底支え要因になっている面もある。上述のようにメディア自体のデジタル化要因もあり、紙の出荷量だけでは理解しきれない複合的な変化が同時進行して商業印刷市場そのものが変容した結果と見た方がよい。
■商業印刷の実態を解説とデータから捉える
5月28日(火)の研究会セミナー「変革期の流通小売業の現在と支援を巡って」は、こうした複合的な変化の起きている商業印刷市場を捉えるべく3人の講師を迎える。EC化、DX、セルフレジで激変する流通小売店の状況を祝 辰也氏(流通経済研究所)が、収益に本格貢献し始めたチラシとデジタルのクロスメディア事例を有村潤也氏(読売IS)が、大手流通小売チェーンの支援事例を山岸祥晃氏(TOPPANデジタル)が解説、ディスカッションと周辺データの分析を通して商業印刷市場の規模と変容、方向性を理解する。
藤井建人(JAGAT 研究調査部)
<参考記事>
2024年5月17日(金) 日本経済新聞朝刊 5/28に登壇の山岸氏の記事
<関連セミナー>
2024年5月28日(火) 印刷総合研究会セミナー
変革期の流通小売業の現在と支援を巡って-商業印刷の変容を捉える-