重要性を増すメタバース
この原稿を執筆しているお盆(旧暦のお盆なので8月。わが家は東京なので、お盆は7月)の時期は、次回page展の詳細を具体的に企画していかなくてはならない、JAGATでは大事な時期である。
「page2023で、何か新ゾーンや新コーナーを作れないかなぁ?」という私の問い掛けを契機にスタッフと議論していると、「メタバースなんかどうでしょうか?」という意見が出た。それに対して、いつもならイケイケドンドンの私なのだが、「時期尚早かなぁ?」「印刷ビジネスとの親和性がなぁ?」とネガティブな受け答えをしてしまった。それ以来、印刷業界でのメタバースへの取り組みについて考えている。
メタバース(Metaverse)とは、仮想空間のことである。Meta(超越)とUniverse(世界)の合成造語で、ニール・スティーブンスンのSF小説『スノウ・クラッシュ』(1992年)の中で初めて名付けられた。メタバースは独自の仮想空間にアバター(自分の分身となるキャラクター)を立て、遊んだりゲームをしたり、またはビジネスをしたりができる。
なお、VRゴーグルを付けて仮想空間内を闊歩することもメタバースといわれることがあるが、厳密にはそういった世界はVR(バーチャルリアリティー:仮想現実)として区別されている。テレビ番組の「相棒」(ワタシテキには、おじさん世代の意識のバロメーターとしている)でも、主人公の杉下右京が仮想現実の空間に入り込んで悪(IT長者の加西周明や官房長官)と対決するシーンがあるが、これはVR空間と呼んでメタバース空間とは厳密には区別されるべきものだ。主としてVRゴーグルの有無による区別となるが、定義にばかりこだわっていると事の本質や(ビジネス)チャンスを逃してしまうので、いったん定義は二の次にして、実作業(知識だけではダメ)でメタバースなどの新しいモノに積極的に関わることをオススメする。
要はIT技術を駆使して仮想空間を作り出し、IT的バーチャル空間での生活が現実世界にも増して重要になるということだ。
メタバースのビジネス構築と失敗例
話は変わり、私が幼少のころのことである。私はSFが大好きな空想科学少年だったため、親から黒板をあてがわれて、そこに未来の世界を描いたりして空想したりするのが何よりも好きだった。病気のときに具合が少し良くなると、うつ伏せで黒板に絵を描いて、何時間でも空想世界で生活していられた。今から思えば、メタバース空間で何時間でも生活できる少年だったのだ。
小学校高学年から中学校にかけての生意気盛りのころは、「人間には現実生活も重要だが、同時に想像生活(バーチャル)もあるんだ」と主張していた。想像生活にも実生活と同等の価値があるという考えなのだが、今にして思えば、これはメタバース生活を生きがいにしている現代の若者と大差ないのかもしれない。
メタバースの一番分かりやすい例は「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」だろう。個性的な動物たちとあなたが(アバターとして)触れ合える空間、つまり現実にいながら仮想空間で行動できるのがメタバースなのだ。バーチャルではあるが、メタバースの登場人物やアバターにカワイイ洋服を買ってあげるためにはお金がいるし、メタバースで土地を買ったり家を建てたり、それに対戦ゲームだったらより強い武器を購入しなくてはいけない…等々と、次々にお金の匂いがしてくるだろう。
しかし、このような直接的な商売への短絡はビジネス創出が苦手な日本人的な感覚である。それこそシリコンバレーに集まってくるようなIT長者予備軍たちならサステナブル的な発想で、バーチャルビジネスを作り上げるであろう。これが上手なメタバースビジネスだといえる(この辺については次号で言及したい)。
このように注目度の高いメタバースは、Facebook社が通称の社名を「Meta」に変更したこともブームに火を付けた要因だとされている。反面、メタバースの失敗例の代表格として必ず挙げられるのが、「セカンドライフ」だ。何せアメリカのリンデンラボ社がセカンドライフをリリースしたのは19年前の2003年であり、インターネットの環境は現在と比較すれば貧弱で、アクセスが集中するとカクカクしてアバターがフリーズしてしまう状況であった。ちなみに日本ではトヨタ自動車と日産自動車が参入して、自動車の自動販売機もセカンドライフ内に設置していた。リンデンドルという仮想通貨を登場させ、もしセカンドライフが2022年に登場していれば、メタバース市場を牽引したのではないかと考えてしまう。
(専務理事 郡司 秀明)