JAGATセミナーは人材育成の観点で印刷業界を支援し、人材のボトムアップから業界活性化を図ることが目的である。基本方針は、「印刷会社の“今”の課題を解決」「明日から仕事で使える」とし、印刷現場、営業、マーケティング、デザイン制作、法務、会計と多岐に渡るテーマを取り扱っている。今回は、2022年上期に開催したセミナーについて報告する。
■印刷技術を動画で学ぶニーズの増加
4月は「印刷業界の概論」「ビジネスマナー」「コミュニケーション」「印刷技術」の4テーマに焦点を当てた「新入社員セミナー2022学び放題研修」を行った。昨年、研修に参加した新入社員からは、1回研修を受けただけでは理解しきれないとの声が散見されていた。その声に応える形で、今年は従来のオンラインライブ配信に加えて、オンデマンド動画による再配信を行い、いつでもどこでも復習ができる学習環境を整備した。動画コンテンツ毎の視聴履歴を見てみると、印刷技術の解説動画は、視聴回数が一番多く視聴時間も長い。わからない用語が多い印刷技術に関しては、丁寧に繰り返し学習している様子が伺える。一方、新入社員向けである「印刷製作入門講座」を、業界未経験の中途入社社員が受講するケースも多い。新入社員とは違い入社日が4月ではないため、いつでも、どこでも参加できるオンデマンド配信のスタイルは参加しやすい。また、最近は、広告会社やブランドオーナー企業が、印刷の発注業務や効果的な活用法を学ぶ目的で受講するケースが増えている。オンデマンドで誰もが受講しやすい環境をつくることで、印刷技術の学びは業界の垣根を越えて広がっている。
■動画、Webの制作体制の整備と人材強化
JAGATでは「デジタル×紙×マーケティング」をキーワードに掲げているが、オンラインへのシフトが顕著になっている今、印刷会社のビジネスにおいてもデジタルに対応できる人材は不可欠である。上半期にJAGATが開催したセミナーで上位の参加者人数を誇ったのが、「ゼロから始める動画受注の基礎知識」「ゼロから始めるWebディレクター」である。印刷会社のWeb制作体制は整いつつあり、動画制作に関しても意欲的である。(JAGAT記事参考:オンライン校正の導入が加速し、動画制作が定着)一方、動画やWebの制作はできるが、「案件の受注確度が低い」「受注後のディレクションが弱い」等に課題があり失注やクレームにつながり、ビジネスチャンスを逸するケースも多い。これらの工程は、顧客接触機会が多く、営業・企画人材スキルが大きく影響する。動画やWebの企画提案といった華やかな部分だけではなく、顧客とのコミュニケーション、ディレクション技法を“ゼロから”学ばせ人材のボトムアップを図ることが直近の課題のようだ。
■教育はコストではなく投資の意識が高まる
印刷会社の社員教育への向き合い方として「教育効果第一主義」の意識が高まっている。JAGATは、「工場長養成講座(全6回)」、「DM企画制作実践講座(全6回)」を2022年上期に開催した。いずれも、印刷会社の仕事に直結したテーマであり、全6回と時間をかけて、参加者の実案件にコミットしながら深く学べる講座だ。このような長期講座は一般的なセミナーと比べれば学習効果は高いものの、受講料が高く学習期間も長いことが障壁となり参加社数が少ない傾向にあった。コロナが拡大した2020年からは、経済環境の悪化が引き金となり、長期間の研修あるいは人材育成そのものへの投資は、更なる抑制対象になるのではないかと一抹の不安を抱いていた。しかしそれは杞憂に終わり、今では開催1カ月前には定員に達して募集を締め切るほど人気を博している。コロナ禍において、企業は単純な投資の抑制ではなく投資対効果を強く意識している。人材育成も同様であり、投資コストが高くても印刷会社の仕事に直結し教育効果が高いプログラムであれば積極的に参加する傾向が顕著にあらわれる。
以上、2022年度に上半期(4月~9月)開催したJAGAT人材育成セミナーを振り返り、印刷会社から関心が高かった教育テーマについてその一部を紹介してきた。講師の良い話や事例を聞けたと等の一過性のモチベーションアップで終わるのではなく、実際に仕事で生かせ、人材のスキルアップにつながるような学習機会を増やしていきたい所存である。
JAGAT 塚本直樹
【関連情報】
■JAGATセミナーWebページ
https://www.jagat.or.jp/cat3