コロナ3年目の2022年は、アフターコロナへの希望とウクライナ危機による不透明感が交錯する状況が続いた。結果として、20年続いたデフレの終焉など時代の転換点を迎えた。JAGATの各種調査結果から、年末時点で見えているところまでの材料をもとに振り返る。
■2020年:売上高:コロナ禍による未曾有の落ち込み
2019年10月の消費増税の影響がようやく薄れかけた年明けにコロナ禍が起きた。2月中旬からその深刻さが明らかになるにしたがい、3月から売上高が急落、各社が本格的なテレワークに取り組んだ5月は未曽有の25%減。緊急事態宣言解除の5月以降は、景気全般の回復ほどには至らないまでも、売上高は少しずつ戻りを試した。しかし10月以降は第3波が到来、GoToトラベルなどの景気刺激策も中断に追い込まれ、印刷市場も再び落ち込んでいった。
■2021年:売上高:19年水準には遠いが、年末にかけて回復
2021年は、2月まで緊急事態宣言の影響で2020年の流れで低調に推移した。景気が改善し、3月には宣言解除もあって相当に下げ幅を縮めた。4月に15カ月ぶりのプラスを回復すると、9月まで6ヵ月連続のプラス圏で推移した。ただしプラスとはいえ2020年が未曾有の大幅減だった反動増である。2019年と比べれば15%前後のマイナスであり、表面的にはプラスだが2019年と比べた実質で見れば需要水準自体が大きく切り下がってしまったのが実態である。
■2022年:売上高:21年に続いて安定した増勢基調
2022年は、1月と4月こそ微減だったものの、総じて年末まで増勢で推移した。JAGAT調査によると、1~11月の累計売上高は3~5%増。2021年の2%増を上回るのは確実になった。感染者数は高止まりが続いたものの、徐々に社会と経済の正常化が進んだことが大きい。日経平均株価が30年ぶりの30,000円台を回復するなど景気が持ち直すに従い、3月は宣言の解除もあって相当に下げ幅を縮めた。5月から11月まで7ヵ月連続のプラス圏で安定推移した。
■2022年:景況感:全体に改善、投資は様子見、物価上昇感強い
全体の景況感は、8-10月期にようやく8四半期ぶりのプラスに転じたが、業界の景況感は低位に沈んだまま。それでも経営の景況感は±0以上に浮上したので、従来型印刷販売以外の要因が寄与したと見られる。投資意欲は、設備投資、システム開発投資とも微々たるプラス幅にとどまって活発とはいえない。懸念材料ではあるが、好意的に見れば投資に頼らない本質的な変革が進んでいる可能性もある。資材料単価は史上最高値に上昇して経営を相当に圧迫した一方、印刷販売単価もかつてなく上昇した。
■2022年:製品別:出版の低迷、商業の回復、包装の好調
出版印刷はコロナ特需が消失した。商業印刷はイベントや集客企画の再開、観光の回復傾向などが年間を通して続いて印刷需要を喚起した。包装印刷は最も早くプラス圏に回復して、以降も巡航速度を維持しているようだ。事務用印刷はコロナ対策・景気対策など政策需要の振れ幅が大きく、一概には言えない。『JAGAT印刷産業経営動向調査2022』の需要調査によれば、高収益企業では、デジタル印刷と付帯サービスを組合せ、当該顧客に最適なサービスを設計して提供していることが考察されている。
■2023年:印刷市場はどう動くか、そしてその要因は
JAGAT会員を対象にした毎年恒例年末アンケートの23年見通しによると、売上高はやや強気、利益は保守的といったスタンスがコンセンサス(調査協力社には12/27に詳細レポート全8枚を送付、『JAGAT info』23年1月号に掲載予定)。現在進行中の物価高騰は、もはや経費削減努力だけではこなしきれない。そこで、価格転嫁、価格修正、単価向上など、創注と価格戦略に関する言及がいつになく多い。デフレ局面は終わりを告げた。売上高を増やす努力の必要性が高まったことは明白だ。新たな時代の価値観に合わせた戦略への転換を考える必要がある。
*JAGATの各種調査結果—回答社にフィードバック、『JAGAT info』に掲載、下記セミナーで解説
・『JAGAT印刷産業経営動向調査2022』(2022年1-3月調査、次回は2023年1-3月予定)
・『JAGAT印刷業毎月観測アンケート』(毎月調査)
・『【年末恒例】2022年振り返りと2023年予測【アンケート】』(2022年12月調査)
※オープンイノベーションの時代であり、調査に参画していち早くフィードバックを得て経営に生かすスタンスを推奨します。
(JAGAT 研究調査部 藤井建人)
<関連セミナー>
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「JAGAT印刷産業経営動向調査2022」