日々の商談、社内の打ち合わせ、ひいては家族の会話など、日頃の様々なコミュニケーションの中で、「聞く」ことは重要だ。ベストセラーとなった新書「聞く力」(阿川佐和子:著)から「聞く」ことの極意を紹介する。
インタビューを担当するようになって
弊協会発行のJAGATinfoにて、今年度から「事業紹介インタビュー」というコーナーが復活した。そのコーナーを担当させていただくことになり、色々と試行錯誤している。私自身、これまで営業畑を歩んできて、交渉や商談というものに対して、ある程度は出来るという思いはあった。しかし、いざインタビューをやってみると、自分の力不足を痛感し、同行いただく先輩におんぶに抱っこの状態である。ただ、いつまでもそういうわけにはいかないので、先日、「聞く力」(阿川佐和子:著)という本を読んでみた。週刊誌での連載や、テレビの討論番組の進行役でお馴染みの著者が「聞く」をテーマに自身の経験をまとめた書籍で、昨年ミリオンセラーを達成した書籍だ。その中からインタビューに限らず、日頃の商談や、社内でのコミュニケーションにも活用できる「聞く力」の極意を紹介したい。
質問の柱は3本に絞る
サッカー選手が試合の前日インタビューで「いい準備をして、明日の試合に臨みたい」とコメントするのを耳にしたことがあると思う。仕事においては、基本、段取り8割。例えば商談であれば、あらかじめ問答を想定し、どの段階で見積もりを提示し、クロージングまで持っていくかという事をイメージすることであり、インタビューであれば、事前に聞き手の事をよく調べて、質問を用意することである。しかし著者によると質問は用意するものの、柱は3本に絞るべしという。その理由は「相手の話に集中する為」だという。書籍の一文を引用する。
「質問の内容はさておき、『あなたの話をしっかり聞いていますよ』と言う態度で臨み、きちんと誠意を示すことが、まずはインタビューの基本だと思う。」
多くの質問を用意すると、この質問をしなきゃ、あの質問が抜けていた、と言うことの方が気になってしまい、連続性のないインタビューになってしまう。会話は生き物であり、インタビューも生き物だということを肝に銘じておきたい。
「名相づち打ち」を目指す
ある臨床心理学者は、心に様々な傷を抱える人のカウンセリングをする中で、患者さんにいっさいのアドバイスをしないという。それは責任逃れではなく、本当に心の病を治そうとするなら、地道にその原因を探さなければならず、そしてアドバイスをすると、うまく行かないのは全部、「こうしろと言ったアイツのせい」と言う風に勘違いされる恐れがあり、それは治療の役に立たないのだという。
また「面白そうに聞く」というのも重要な要素だ。ともするとインタビュアーは鋭い質問を浴びせるとか、相手の言葉の隙を突っ込んでいくのが有能と思われがちだが、必ずしもそうではない。面白そうに聞く為に重要なのが「相づち」である。「そう」「どうして?」「それから?」とほんの一言挟むだけで良い。書籍からの言葉を引用しよう。
「ただ聞くこと。それが相手の心を開く鍵なのです。」
器量のいい女性が笑顔で相づちを打つのと、むさくるしい不細工男の相づちで、同じ結果が出るとは考えにくい。しかし、いい営業マンほど商品説明をしない、というのもまた事実である。「例えば、それはどういう事でしょう?」とか「なるほど、具体的にもう少し教えていただけますか?」と言う風に、相づちに質問を加えていくと、会話にリズムが出てくるのではないか。
自分の話を聞いてほしくない人はいない
この本とは別の本に「会話の時に、大半の人は、人の話を聞いているのではなく、その人が話し終わるのを待っている。」と書いてあり、あまりにも図星でがっかりした記憶がある。立て板に水のごとく言葉が出てくる人の方が少ないし、口の重い人も確かにいるが、それでも大半の人は話す事が好きなのだ。そしてそれを聞いてもらうということが好きなのではないか。だとしたら、思う存分話して貰えばよいのだ。そう思ったらインタビューや商談はとても楽になる。
「私が最終的に目指すところはどこかと問われれば、とりあえずゲストに『アンタの顔を見ていたら、いつの間にか、喋っちゃったよ。あー、楽しかった』と嬉しそうに帰っていただくことです。」
著者の言葉を引用するまでもなく、ここまで来るとインタビュアー≠敏腕ジャーナリスト、いい営業マン≠スーパー実演販売員ではない事がお分かりいただけるのではないか。インタビューであっても、商談であっても、基本は「会話」だ。人生は会話に始まり、会話に終わる。まずは、相手が話し終わったらすぐに話すのではなく、相づちを打ってから話し始めてみてはいかがだろうか。
(JAGAT CS部 堀 雄亮)