企業における人材不足は5月8日のコロナ5類移行により更に加速している。印刷会社でも人材難の話は良く耳にするが事態は深刻だ。ダイヤモンドオンライン(2023.5.12)掲載記事では、「人手不足」倒産がさらに深刻化へ、東京商工リサーチが独自データで解説が掲載されている。東京商工リサーチ(TSR)が4月に実施した企業向けアンケートでは、企業の66.5%が「正社員不足」と回答した。このうち、大企業(資本金1億円以上)は73.2%、中小企業(同1億円未満)は65.5%で、大企業ほど人手不足が顕著だったとある。ただし、今の「人手不足」は、ひと昔以前のように必要なときに容易に採用できる時代ではない。シビアな現実を認識すべきだ。正社員・非正社員を問わず、採用コストが上がり、仕事を回すには人が必要な業種は多い。
スキルマップの活用が多能工化へ繋がる
人材採用難の一方、益々必要になるのが人材の活用、生産性の向上だ。2018年版「中小企業白書」(経済産業省)、第2章掲載「深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命」事例では、従業員のスキルマップを活用することで、人員配置を適正化し、多能工化へもつなげている企業として東京都八王子市の坂西精機株式会社(従業員91名、資本金5,000万円)が紹介されている。同社は、歯車を組み合わせた減速機の製造や精密部品全般の加工・組立を行う企業である。以前は、各従業員の能力の把握が現場頼りになっていたため、管理者は、自社の従業員がどの程度の能力を有しているのか完全には把握できていなかった。結果、例えば部署によってスキルの高い人が集中し、他方で慣れていない人が集中するなど、部署間の能力に偏りが発生していた。そこで、その状況を改善するため、全従業員のスキルマップを作成し、従業員の能力を管理者が把握することで、適正な人員配置とスキルの標準化を行うこととした。 例えば、製造部門では、「読図」、「NC旋盤操作」、「製品の測定」、「異常時の対応」等のあらゆる業務をスキル項目として設定しており、習熟度を「作業に携わったことがない」の「1」から始まり、「指導することができる」の「5」までの5段階で評価している。そして、面談時に課長と従業員が擦り合わせてスキルの評価を決めている。このスキルマップは人事考課には関係なく、あくまで管理職と従業員のコミュニケーションツールとして用いている。スキルの評価が上がった者には管理職がねぎらい、次の目標を共に立てることで、従業員の更なる業務意欲向上につなげているという。
急がば回れの多能工化
従業員のスキルの見える化により、適正な人員配置と業務分担が可能となった。同社では、従業員の能力の偏りを防ぐため、スキルマップ上で一定の熟練度に達したら本人の意向を踏まえた上で、別の部署に異動させている。結果、忙しい部署に対し、他部署から支援に回ることができる人材が増えるなど、従業員の多能工化にもつながっている。各従業員が特定の業務に特化し専門性を形成した方が、高い生産性を発揮すると思われるものの、同社ではその考えはない。「慣れない業務を担当させることによる一時的な生産性低下のデメリットよりも、将来のことを考えておくことが大事。実際、従業員の多能工化により、本来の担当者が不在であっても、他の従業員が補うことで同様の生産性を保つことができ、大きなメリットと感じている。今後も同様の取組を進めていきたい。」と坂西宏之社長は語っている。多能工化は、急がば回れがのようだ。
人材不足を補うための多能工化への取り組みは、印刷会社でも多く見受けられる。
手順は、
①チーム全体の業務を洗い出す
②業務を抽出する
③マニュアルを作成する
④マニュアルに沿って行動させる
⑤フィードバックをより良いものにする
この手順では、作業標準をつくることが必要になる。つまり、標準化という改善活動に取り組むことになるのだ。印刷工場では受注生産で多品種少量化が進む中、計画的な製造管理や受注管理が難しく、工程や個人のスキルによるムリ、ムダ、ムラによる生産性の低下は、働き方改革への妨げにもなっている。解決策のひとつが多能化だ。多能工化は、属人化を解決することで部門や工程での平準化に取り組み生産性向上を図るものだ。多能工化と改善活動はセットで効果が上がる。過去の感や経験での製造工程や現場教育では難しいことでもある。肝心なことは、組織的にしくみ化することだ。そして、改善活動をマネジメントするリーダーを決めたら徹底的に支援、信頼し、リーダー自身は、現場や人に寄り添うことだリーダーシップと人材育成がカギを握る。
(CS部 古谷芸文)