DXと人材育成

掲載日:2023年6月6日

DXが進まない第一の壁は人材であり育成がカギとなる。優先するべきはビジネスを創出、変革できるX人材の育成と、組織全体のデジタルリテラシー向上を促す全体教育が必要である。



DX推進の課題は人材、しかし育成は進まない


中小企業のDXが進まない要因として人材の強化が課題にあげられる。それではなぜ、DX人材の強化が進まないのか。一つには中小企業の人材力強化を支援する立場の感覚でいくと、DX人材像のハードルが高すぎて今の人材スキルの何段飛ばしの先の印象を受ける。DX人材を示す職種として代表的なものは、プロダクトマネージャー、データサイエンティスト、テックリード、先端技術エンジニア、UXデザイナー等がある。それぞれが保有する専門性や特長に違いはあるが、DX人材とは?についてわかりやすく定義すると「ビジネス、データ、システムに高度な知見がありイノベーションを起こせる人材」である。この時点で諦めの境地に至ってもおかしくはない。また、そうした人材を強化するには、「採用」「教育」の二つの手段をとる必要があるが、採用に関してはハードルが高い。IT人材不足79万人、エンジニアの求人倍率は10倍とも言われ、国内だけでも採用環境は熾烈な争いになる。また、グローバルで見ても、賃金の高い海外企業へ人材が流出するのは必然であり、中小企業はおろか、大企業でさえも採用は困難だ。
一方、人材育成は、政府がリスキリングに5年で1兆円を支援することを表明するなど、学習させる機会は増えていくため社内人材の育成は選択肢として考えられる。
ただし、先にも定義したDX人材である「ビジネス、データ、システムに高度な知見がありイノベーションを起こせる人材」を育成するにはハードルが高く、企業としても人材投資意欲が沸かないのも事実だ。では、どのような人材を優先して育成するべきなのかを考える。

 

Xを実現できる人材の選抜と育成


DX推進で陥りやすいのは、DXすることが目的となるケースだ。DXはあくまで手段であり、企業活動であれば、社会への貢献は大前提として、結果として売り上げをアップしたい、生産性を向上して効率を高めたい等の目的がある。そのためにDXが必要か否かを判断する必要がある。そもそもDXはD=デジタルX=変革に分けられ、Xは目的であり企業が成長する上でMustなことだが、Dはあくまで手段であり、Dがあり気で考えることは本質的ではない。つまり、優先的に考えることは企業が何をしたいのかを明確にして、それをビジネスデザインできるXに志向性の強い人材を育成することが先決である。



それではX人材は、どのような人物像に向いているのか、JAGATは印刷会社向けの「新事業開発」「ブランディング」等、いわゆる変革をテーマにした、コンサルティングを行っている。その中で、成果を出しているX人材に該当する人物像には、「ビジネス現場を良く知っている」ことが共通項としてあげられる。自部門のことだけではなく、営業、制作、製造の現場サイドやクライアントを良く知っていることに加え、俯瞰的な視点で現状を捉えるマインドを持っている傾向にある。そのような人材は自社内を見渡してみると、必ず一人二人思い浮かんだりしないだろうか。そうした人材がX人材に適している可能性が高く、事業開発、マーケティング、課題解決力のようなビジネスサイドを強化できる育成プランを提供することが望ましい。一方、Xである変革やイノベーションが重要ではありつつも、それを実現するために、デジタル技術を活用する確率が高いのも事実である。だから、X人材へデジタル領域の教育を施す必要はあるのだが、そこは専門性を追求するよりも、まずは社内外のデジタル、IT人材と連携をとれるための、ITリテラシーとディレクションスキルをテーマにした教育から始めている企業も多い。


DX人材プログラムは官民共に力を入れている

 

人材育成に力を入れるのであれば、受講料はそれなりに高くても、体系だったプログラムの研修を受けることは費用対効果の面でも望ましい。特に、X領域の育成をするのであれば、実務に直結した実践型のプログラムを取り入れることを薦める。社会全体が後押ししていることもあり、市場には豊富なDX教育プログラムが充実している。5月に開催された「デジタル人材育成支援EXPO」では、多数の出展社と来場者で賑わっておりその注目度の高さを再認識した次第である。JAGATでも、ビジネスを創造する上でデータ分析活用は重要であると考え、まずは営業活動に的を絞ったデータ分析の基本のキをテーマにした研修である「営業活動のためのデータ分析と活用入門」を新規で開講する。また、ベーシックなプログラムであれば、無償の教育プログラムもあり、ドコモの「gacco」Googleの「Grow with Google」官が主導している「マナビDX」が代表的である。東京都でもDX人材育成に力を入れており、「学び続けるDX人材育成プログラム」として無償で受講できる機会を設けており、都内に事業所がある中小企業であれば、応募することができる。1次募集は既にスタートし、2023年6月13日からは2次募集がスタートする。組織全体のデジタルリテラシー教育を行うには無償のプログラムも併用すると効果的である。

“DX”はわかりやすいようで、わかりにくい曖昧のものであり、DXが目的になりがちである。また、Dのイメージが強くデジタル、IT系の人材育成が火急の課題と捉えがちだ。そうではなくて、何を創出したいのか、変革したいのかXを明確化すること。そしてXを推進できる人材の育成が重要であり、ビジネスサイドをメインに+デジタル教育から始めてみるのも一考である。

 

JAGAT 塚本直樹

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