印刷ビジネスが多様化する中で、関連する法律問題も多様化している。頻繁に行われる法改正にも対応していく必要がある。
労働者派遣法の改正で何が変わるか
派遣労働の期間制限を一部撤廃する労働者派遣法の改正案は、6月19日に衆院を通過し、7月30日に参院厚生労働委員会で実質審議入りした。派遣会社に新たに義務づける派遣労働者への教育訓練の指針などの作成や、関係者への周知のため、施行までに一定の準備期間が必要で、改正案の施行日(9月1日)から逆算して8月上旬までの成立を目指していた。しかし、安全保障関連法案を巡る与野党の対立の影響などから、8月末から9月上旬の成立にずれ込む見通しで、施行日の延期を9月30日を軸に調整している。
本日11日の参院厚生労働委員会で審議を続行し、与野党各会派が質問に立ち、政府の見解を質すことになる。
改正案では「専門26業務」にだけ無期の派遣を認めていた規制を緩和し、すべての仕事で3年ごとに派遣労働者を代えれば、自社の労働組合の意見を聞くことを条件に、派遣に仕事を任せ続けられるようになる。日本商工会議所、経済同友会の3団体は、労働者派遣事業の健全化(許可制に一本化)、派遣労働者のキャリアアップの強化(派遣労働者の教育訓練の義務化)にもつながるとして、同法案の早期成立を求めている。しかし、低処遇を放置したまま常態的な間接雇用法制を実質的に導入するもので、ワーキングプアの問題が拡大する危険性も指摘されている。
印刷業界ではこれまで、DTP、グラフィックデザイン、編集、校正、事務・ファイリング、データ入力、財務などの「専門26業務」の分野で派遣労働者を活用してきた。業務の繁閑に合わせて必要なスキルのある人材を採用するケースが多く、出版・印刷会社向けの派遣会社では、DTPエキスパート有資格者などを営業やコーディネーターに採用して、派遣先とのミスマッチを防いできた。今後も柔軟かつ戦略的な人材活用が望まれる。
職務発明をめぐる紛争は解消されるか
法改正は頻繁に行われるもので、印刷ビジネスに関わる法改正に関しては、特に注意しておく必要がある。
7月3日には改正特許法案が参議院を通過し、2016年7月までに施行されることとなった。
特許法では特許を受ける権利を発明者に与えているが、現行法では従業者が会社の職務に関して行った発明(職務発明)については、その権利を使用者に譲渡し、その代償として「相当の対価」を請求する権利を与えるものとし、対価の決定は自主的な取り決めに委ねられている。
改正法では職務発明に関して、特許を受ける権利を企業に帰属することを契約、規則に定めた場合には、その権利を従業者を介することなく会社に帰属させることができるようになる。その場合でも、現行法と同じく「相当の対価」(改正法上「相当の利益」)の支払いは必要である。また、「相当の利益」の内容の決定について従業者からの意見の聴取の状況を考慮することが、新たに明文化された。
職務発明について、青色LED訴訟など巨額の支払いを求める紛争が耳目を集めたが、改正法によって特許権の帰属をめぐる争いが解消されることが期待される。今後は「相当の利益」の決定の基準の策定や従業者との協議のあり方の見直しが求められるだろう。
印刷会社のための経営法務とコンプライアンス
印刷ビジネスと法令との関わりはなかなかに複雑なものだが、JAGATでは印刷業が情報産業として成長するためには法令遵守は欠かせないという観点から、「印刷後継者・経営幹部ゼミナール」のカリキュラムに「経営法務とコンプライアンス」を組み込んでいる。さらに年1回、「印刷会社のための経営法務とコンプライアンス」セミナーを開催している。
また、管理者向けの通信教育として2008年に「印刷ビジネスのための法務コース」を開講した。受発注契約、知的財産権、個人情報・企業情報、環境問題という幅広い分野を対象とするコースで、その大枠には変更はないが、この間の法律改正に対して十分に対応してきたとは言えなかった。そこで、最新の法改正状況を反映したサブテキスト『印刷ビジネスのための法務コース資料集』を新たに作成した。JAGAT通信教育では今後とも随時改訂を進め、より役立つコースにブラッシュアップしていく方針である。
(JAGAT CS部 吉村マチ子)
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