マーケティングオートメーションと 印刷業界

掲載日:2015年7月22日

ここ数年、JAGAT ではアメリカの著名な印刷コンサルタントであるジョー・ウェブ博士の著述や主張を取り上げ、それについてJAGAT なりの意見を織り込んで、皆さんと議論してきた。ウェブ博士の主張の中には、マス(マーケティング)の否定や印刷物はトラッキング(購買情報)が取れないので、「印刷物の将来は難しい?」とまで受け取れかねないことが散見される。

しかし、これは相当オーバーな表現であり、IT コンサルタントが「これからは、TV はだめですよ」と言っても、TV がNo.1 メディアとして君臨している現実は無視できない。しかし、大容量HD 付きのTV(録画装置)を持っている若い層だと、生でTV 番組を見ないで、いったん録画してから見たいものだけを見るという人が増えている。そんな人はCM を見ないかもしれないが、CM 自体が一つのサブカルチャーとして、世間話としての会話で話題になるというのもまた事実なのである。

印刷ビジネスの新しい常識とは

ウェブ博士の主張を再整理する。旧来の慣習から新常識について対比させたものである。

1. マーケティングにおける印刷物の役割
From 絶対に必要(Only one) to 数多くのメディアの一つに(One of them)

2. マーケティング手法
From アウトバウンド to インバウンド

3. 印刷会社の課金
From 単発ベース to 継続ベース、成果ベース

4. 印刷会社の儲けは
From 印刷物 to 印刷サービス

5. 人材確保は
From 正社員を活性化 to 外部人材とのコラボレーション(外部ネットワークを構築・活用)

1 の役割は、印刷物が唯一絶対のメディアだったものが、Webなど(特にスマホ)の台頭で、相対的に印刷物の地位が下がっていくのは仕方ないといえる。したがって「新しいメディアと上手く連携して印刷物の価値を高めるのが良いのではないか?」というのが首尾一貫したJAGATの考え方であり、私自身もそれを支持している。

2 のマーケティング手法について、印刷技術がこれまで培ってきたのは、マスに対してのソリューションであり、印刷(特にアナログ印刷)に一番適しているのはマスであることは否定できない。しかし、インバウンドに比重が移ってくると非マス的なアプローチは決して無視することはできず、デジタル印刷とワンtoワンという指向性は大きなうねりになることは間違いない。

日本の特殊性としてはアナログ印刷でもギャンギングやUV 印刷、速乾印刷と組み合わせて、他品種・小ロット・短納期を現実のものにしていることだ。単なる小ロット生産を効率よくすることだけではなく、マーケティングオートメーションを取り入れてのビジネスへ発展させていくべきと思う。

3 の課金で、成果主義に移行というのはハードルが高いだろうが、注文の仕方が小分けになり、その代わり2 年契約といった例は確実に多くなるだろう。今までは1 万部の注文に対して、「どうせ2 万部使うなら割引しますから、2 万部刷りましょう!」というのが印刷営業の常套句だったと思うが、これからは500 部ずつ分納や、200 部ずつ使用する各地に送付となるだろう。

また、分納の際に少しずつカスタマイズしていくことも予想される。そのような要求にはデジタル印刷が最適だが、在庫を肩代わりということならアナログ印刷+倉庫というビジネスも有るだろう。

4 の儲けは今回もっとも大事なポイントで、印刷物製作だけのビジネスから印刷物を絡めた付帯サービスまでをビジネスにする。今後の大命題である。

5 の人材確保については、人材育成に熱心な会社はスキャナオペレーターを再教育して、IT 技術者やCG オペレーターなどにすることが普通だが、それが正しい方法か?ということである。印刷業界は皆まじめなので、そういう教育を受けると、死にものぐるいで頑張り、新技術を自分のものにしてしまう確率も決して低くない。しかし、外部の専門家とコラボしていくというのが本流だろう。

このようなことをウェブ博士は言ってきたのだが、マーケティングオートメーションについて少し考えていきたい。これには、「印刷業も製造業(印刷物製作だけ)として居直るだけではなく、マーケティングのお手伝いもできる姿勢が必要ではないですか?」という気持ちが込められている。

しかし、マーケティングのプロになれとまでは決して言っているわけではなく、マーケティングの強くない印刷発注者なら、いろいろ相談に乗ってあげて、効果も一定レベル以上は出せる実力は備えるべきであろうということだ。マーケティング力のあるナショナルクライアントを対象とした場合も、マーケティング専門会社や広告代理店とうまくやれるだけの素地は印刷会社に必要ということである。

(JAGAT 専務理事 郡司秀明 全文は『JAGAT info』2015年6月号に掲載)