*印刷物でタイトルや小見出し、本文にどんな書体を使うかは、重要なデザイン要素の1つである。書体は印刷物の顔であり、メッセージを伝える声のようなものなのだ。
オフセット印刷の急成長と多書体
1960年代後半から1970年代は、金属活字の組版から写植、CTS(コンピューター組版)への移行が進んだ時代である。これは同時に活版印刷からオフセット印刷への移行でもあった。
高度経済成長の波に乗って印刷需要も飛躍的に増えていった。ファッション雑誌の創刊が相次ぎ、商業印刷分野でもカラー印刷が年々増えた時代である。オフセット印刷への移行は必然的だったのだろう。
印刷物にバリエーション豊かな書体を使用することが一般化したのも、この時代である。
活字組版では、書体ごと、サイズごとに各々の活字を用意する必要があるため、多書体化は困難であった。
写植は、文字盤を差し替えるだけで多書体が扱え、サイズも柔軟に変更できるため、多書体の恩恵を存分に発揮できた。大手写植メーカーは書体コンテストを開催し、新書体を発掘していった。
オフセット印刷の成長は、多書体時代の始まりであったとも言える。
印刷物でどの部分にどの書体を使用するかは、重要なデザイン要素の1つである。タイトルや小見出し、本文にどんな書体を使うか、デザイナーのセンスや技量が明確に表れる。オーソドックスなデザインで、信頼性を表すこともある。明るくポップな印象や喜怒哀楽、知性を伝える場合もある。
豊富な書体によってデザイナーは表現の幅を広げ、メッセージを適切に伝えることができたのである。
1990年代から2000年代には、写植やCTSに代わってDTPやデジタルフォントへの移行が進んでいった。多書体化は一段と進化し、現在では数多くの書体が低価格で印刷に使用できるようになっている。
Webの多書体時代は来るだろうか
つい最近までWebページの多書体表示は、ほとんどできないというのが一般的な認識であった。
Webの仕組みは、Webブラウザ―という表示ソフトがWebサーバーの情報を読み込んで表示するようになっている。その際、閲覧者自身のPCに存在するデバイスフォントが使用される。通常はPC上のデフォルトのゴシック書体だけで表示されることがほとんどである。
そのため、印刷イメージを画像化して貼り付けるといった手法も数多く使用されている。
Webフォントとは、使用フォントの種類とフォントサーバーを指定することにより、Webブラウザ―上にフォントデータを読み込み、リアルなフォントを表示する仕組みである。
国内でも2011年頃から有償のWebフォントサービスが始まっている。当初は日本語フォントの文字数が多いため、パフォーマンス面で問題があるとされていた。近年では必要最小限のフォントデータをダウンロードする方式により、一般のWebページとほとんど変わらないレスポンスで表示できるようになった。
スマホやタブレット、PCなどあらゆるデジタル環境で豊富な書体による表現が可能になったと言える。
多書体化によってデザイナーが表現の幅を広げ、メッセージを伝えたいということは必然的な要求である。他社との差別化も可能である。少し前までは技術的な制約によって、それが適わなかったと言うことである。
初期のWebブラウザ―はテキストだけを表示し、画像は別ウィンドウとするものだったそうである。今では画像はもとより、動画を表示することも当たり前になっている。
Webページでも、印刷物と同様に多書体が当たり前となる時代が近い将来訪れるだろう。
(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)
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2015年7月28日(火)15:00-17:00(受付開始:14:30より)
印刷物におけるフォント選択は、メッセージを伝えるための重要なデザイン要素である。Webの世界でもフォント選択が重要な時代へと進みつつある。