描版は近代レタッチのルーツ

掲載日:2014年8月12日

※本記事の内容は掲載当時のものです。

湿板以前になると戦前の技術で、石版<セキバン>印刷や描版<カキハン>になる。現在これらの技術を体験されておられる方は60歳以上の方と思われる。私は目撃者として描版を知っている。それは文字通り、網点を点描で作成するというものである。原稿、原画から、アタリ版(輪郭の版)を丸針と紅がらで作り、それをたよりに絵柄を作成するという気が遠くなるような原始的方法の技術である。

徳川時代の歌麿や北斎の版画作成の彫師たちまで遠くさかのぼらなければならなくなるが、近代レタッチのルーツとは、この描版の技術者たちをいうのではないか!

「徒手空拳」という言葉があるが、現在のコンピュータ化された製版機器に比べれば、描版とは全く原始的手づくりで画像再現にチャレンジした技術といえよう。

現在の画像再現性に比較して、その頃の製品は、稚拙にも思えるだろうが、画像再現のための有効な製版機器はゼロに近い時代の中で、ハンドワークとわずかな生産手段で製版した描版技術者は尊敬されるべきであろう。
「すべての色を網点に換算する能力」は、レタッチマンにもスキャナオペラーターにも必要であると「レタッチ技術手帖」(日本印刷技術協会刊)に私は書いた。描版技術者はイメージコンダクターも、色分解されたセパネガもなく、自己の色彩感覚のみを頼りに色再現をしたのだ。

私は30cm角の網目スクリーン(孔版で使用するようなもの)にルーラー(ローラーのこと)でインキをつけ、親指や、布を巻いた指で、巧みにジンク版(亜鉛版)に「アミフセ」している描版技術者の姿を目撃している。今から思えば「職人芸」ともいうべき世界ではあるが、あの親指からC、M、Y版のモアレを計算した網点を作成し、色再現する技術は驚異的な技術である。イメコンを内臓した「黄金の指」ともいうべきだろう。こうしたハンドワークの器用さは、後のHB製版の人工着色などに受けつがれるのである。

『続・レタッチ技術手帖』(社団法人日本印刷技術協会、坂本恵一)より
(2003/03/28)(印刷情報サイトPrint-betterより転載)