人工着色におけるポジ修整のポイント

掲載日:2014年8月12日

※本記事の内容は掲載当時のものです。

写真5を参照されたい。これは今から30年くらい前に私がレタッチした人着による製品である。この製品は1枚のオードリイ・ヘップバーンのモノクロ写真から、人着でカラー化色再現したものだ。


写真5

手順は下記のごとくである。

《1》湿板製版の工程(図1参照)
《2》湿板ポジ撮影のポイント(図2参照)


図1


図2

イ)M、Y板はポジにかぶりをもたせ(ハイライト寄りを多く)暗部濃度は薄めに(シャドウをねかせて)撮影する(軟調な版に撮影する)。

ロ)C、Bk板は、ポジはコントラストを大きく撮る。ライト寄りは少なく、シャドウ濃度を強く撮影する(硬調な版に撮影する)。

ハ)Bk版はとくに重要である。現在のスキャナ時代のBk版はスケルトン版(骨版)で補色版的役割であるが、湿板の場合、全体のシャドウ部をしめて、画像の仕上りを決定的にする主版<オモハン>であるからである。

Y、M、C、Bk版のポジ修整には大体3日間くらいかかったが、とくにBk版は1日以上の修整時間をかけた。この製版の場合、C、M、Y、Bk版のほかに淡赤版、淡藍版という補色版を使用した、6色製版が多かった。(後述)。各版のポジ修整の手順は図3のとおりである。

スキャナ時代の現在、読者の中には、こうした手順と修整にとまどいと違和感を持たれる方がおられると思うが、「人工着色」の製版は、「色分解」されてないのであるから、「色」はレタッチマンが「創造」すると思っていただきたい。

現在でも現役で活躍されている湿板を経験した年輩のレタッチマンの方は、少々ハイキーなカラー原稿でも、ローキーなカラーでも、自在に色演出する技術をもっている。それは、湿板時代の「人着」という色再現方法が経験的にレタッチマンの体質として血となり肉となり身体で覚えているからである。

技術や工芸などの修得は、年齢の若い時代が大切である。すなわち「基本」が大事である。「人着」で身につけた「色演出技術」は、色を網点に換算するセンスとして生きつづけ、原稿のポイントを協調するという色再現の急所を押さえるセンスとして、今日の製版に生かされていると思う。

湿板時代の気の遠くなるよな修整方法に比べれば、スキャナ時代の現在の色再現には多様なバリエーションがあり、少々の難度の高い原稿も処理しやすいといえるだろう。


図3


図4

『続・レタッチ技術手帖』(社団法人日本印刷技術協会、坂本恵一)より
(2003/03/28)(印刷情報サイトPrint-betterより転載)