DTPエキスパート認証試験は1994年3月に第1回がスタートし、今回2015年8月30日の試験で第44回目を迎えるまでになった。
これも皆さまがJAGATを支えてくれたおかげなのだが、JAGATとしてもDTPの標準化に向けて、試験を通じて常識が浸透するように努力し続けてきたつもりである。
かくいう私もJAGAT入社前、DTPエキスパート試験の企画段階から関わってきたのだが、行きがかり上色々な参考書を執筆することになり、そのまえがきを今更に読んでみると青臭くて肩に力が入りすぎて、只々赤面してしまうのだが、自分も元気だったが、印刷業界も元気ハツラツだった時代である。
印刷業界には迷信というか、都市伝説のようなものがたくさんあり、印刷・製版で語り継がれていることが少なくない。そのようなものについて試験を通して是正してきたのがDTPエキスパートということなのだが、その効果はDTPの歴史の中で大きかったと言える。
例えば世の中RGBワークフローだと言って、USM(シャープネス)をRGBデータにかけて、そのRGB画像をCMYK分版したらどうだろう?シャープネスは黒スジとして認識されてしまうので、墨版にUSMのエッジが入ってしまうのだ。したがって印刷のような見当性が重要なメディアの場合は、トラブルになってしまうというのが常識だ。
もちろんCMYKの場合は墨版に太いエッジが入ることはない。だからUSMはCMYKにかけるというのが決まり事なのだが、この辺に関してメーカーを含めていい加減に考えているのが、現実と言える。デジタル印刷が主になり、アナログでもCTPなので見当ズレは無視できるのかもしれないが、昔ながらの私の目には、PDF/X-4のワークフローでもCMYK分版した後に、USMをかけた画質でないとしっくりこない(ジョブチケット等を使えば、技術的には可能)。
万事が万事こんな感じで、FM網点やハイブリッド網点等の網点形状のことなど、これからしっかり啓蒙していかねばという問題点も山積みである。
それと長文問題、受験者にとっては厄介なので常々文句が出るのだが、長文問題は筆記問題では一番実践的な形式と言える。DTPエキスパート試験は大学受験のように受験者の可能性を見出す試験ではなく、可能性より現時点での能力をチェックするものである。
お客様からトラブルの電話がかかってきたとする。大概の場合は頭に血が上っているので要領を得ない説明なので、分かりにくいことこの上ない。その分かりにくい説明から要点を判断し、短時間で正確な結論を導き出すのは、仕事では大変重要なスキルである。
そんなことをシミュレーションするのが、長文問題であり、この形式は出来るだけ多く出したいと思っている。大量の文章から短時間で結論を導き出すことが肝心だ。
反省点としては、これまでに受験生の言うことを聞いて、少し長文問題を減らしてしまったのだが、今後は復活させていきたいと考えている。せっかく貴重な時間を使って勉強するのだから、合格したことを誇りに思える試験でないといけない。
最後にトリビア的なことなのだが、かつてはJAGAT内にも文字オタクがたくさんいて、DTPエキスパート試験にも「康煕字典」「説文解字」的な問題が多く出題されていたが、現在では大幅に減っている。確かに籀文(ちゅうぶん)や大篆(だいてん)などと言う単語はDTPエキスパートを受験しなければ、一生お目にかかることはなかったかもしれない。しかしDTPは工業の中でもデザイン、絵画、写真といった文化的な面(ニオイ)の強いテクノロジーである。
確かに「歴史の年号を丸暗記するのは意味がない」と考えたくなる気持ちは理解できるが、「794ウグイス平安京」「1192作ろう鎌倉幕府(これはもう違うのかも?)」といった年号を知っていれば、イギリスに訪問した際に829年がイングランド王国の成立、パリのノートルダム寺院の内陣完成が1182年という年号と照らし合わせれば、単なる訪問以上の感慨があるだろう。
私は台北の故宮博物院を訪れた際、青銅器に刻まれた古字を見て「ああこれが大篆か!?」といたく感動したものだ。何も知らなければ普通の感動だけだったと思うのだが、知っているだけで人生を二倍も三倍も豊かに生きられるだろう。
これで「トリビア万歳」とは言わないが、DTP関係者として知っていた方が良いと思う、知識については、一問くらいは問うていきたいと考えている。私は大学の藝術学部でも教えているのだが、その際日本の伝統色をなるべく語るようにしている。学生さんたちから例えばグレーでも利休鼠(りきゅうねず)等、教えてもらって大変ためになったと感謝されている。こういう薀蓄を企画会議等で嫌味なく言えることで大いなる差別化になったというのである。
(JAGAT専務理事 郡司秀明)