異業種に学ぶ「競争しない競争戦略」

掲載日:2015年9月30日

薄利を奪い合う同質的競争から脱却し、高い利益率を確保していくにはどうしたらよいのだろうか。「競争しない競争戦略」について紹介したい。

新しい魅力的な利益を得るには

ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授の著書『イノベーションへの解―利益ある成長に向けて』によると、コモディティ化によって、魅力的な利益がバリューチェーンのある段階で消滅していくと、通常は隣接している領域に新しい魅力的利益を得る機会が持ち上がってくるといわれる(「魅力的利益保存の法則」)。

「魅力的利益を得る」には、ライバル企業のことを熟知すると同時に自社のコア・コンピタンスを正しく理解する必要がある。自社では認識していなかったことが実はコア・コンピタンスだった場合もある。

隣接産業との関連は、ますます密接になり、業界ごとの垣根が低くなっている。では、異業種とどのような関係を持つべきなのだろうか。

異業種から学ぶことが多くなる

『異業種競争戦略』(内田和成著、2009年刊)では、従来のバリューチェーンの上位概念ともいうべき新しいコンセプトとしての「事業連鎖」を取り上げている。製品や事業をまたがるより広範な事業間のかかわりを指す「事業連鎖」を正しくとらえることで、事業再構築や業界融合などの動き、そこから予見される脅威やビジネスチャンスをとらえることができるとしている。

『異業種に学ぶビジネスモデル』(山田英夫著、2014年刊)では、異業種からビジネスモデルを移植した成熟産業の成功事例を豊富に紹介して、その秘訣を探っている。そもそもなぜビジネスモデルが重要になってきているのかというと、「製品のイノベーションだけでは、長期にわたる競争優位を維持することは難しくなってきたからである。」

従来の競合他社は同じ業界内に存在していたので、ある程度動き方がわかっていた。しかし、異業種となると商習慣の違いなどがあり、戸惑うことも多い。もちろん異業種の中の競合とどのように戦っていくかを考える戦略もあり得る。しかし、今の時代に合っているのは、むしろ異業種のビジネスモデルから学べるところを取り入れて、自社の強みに変換していくことではないだろうか。

また顧客の多様化するニーズに対応することが重要となる。それを突き詰めて、コモディティ化していくと価格の低下が起きて、消費者にとってのメリットとなる。このことからも異業種の成功事例から学べることがあるはずだ。

新たな競争戦略は非競争による利益の創出

山田氏の最新刊『競争しない競争戦略―消耗戦から脱する3つの選択』では、「いかに戦わずして勝つか」という非競争のススメを説いている。競争しないで利益を生み出している具体的な事例を紹介している。

市場が成熟すると残されたパイを巡って顧客の奪い合いが始まる。場合によっては、価格競争に巻き込まれてコスト低下を上回る価格低下になり、売れば売るだけ損をするという利益の出ないループに陥ることにもなりかねない。

『ブルー・オーシャン戦略』(W・チャン・キム、レネ・モボルニュ)に描かれた競争のない未開拓市場や、『孫子』の兵法「百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」でも「戦わずして勝つ」ことの極意を述べている。

同業種の中でも圧倒的なシェアを持つ「マーケット・リーダー」と正面から戦うのではなく、棲み分けて、共生していくことが、競争しないためには必要なことである。無駄に体力を消耗するよりは、「競争しない状態を作ることによって利益率を高められる」戦略を選択することを提言している。

ビジネスには競争と協調の両方が必要であるとしており、新たな競争戦略として3つの基本方針を整理している。

1.ニッチ戦略
2.不協和(ジレンマ)戦略
3.協調戦略

1.と2.は「棲み分け」、3.は「共生」の戦略である。ここで面白いのは、1.ニッチは「小さい売上」のことではなく、また差別化とも別物だという指摘である。ニッチ戦略を「質」の軸の戦略だけでなく「量」の軸からも捉え、10のカテゴリーに分類して、それぞれ分析している。
 2.不協和戦略とは、同質化されない戦略になる。「資源を持っていないこと」を強みとして、リーダー企業と戦わないことだとしている。
 3.協調戦略は、競合他社となるべく競争しないで共存共栄していく戦略である。具体的に提示されているのは、競合企業のバリューチェーンの中に潜り込んでいく作戦である。つまり協調せざるを得ない状況に持ち込む戦略ともいえる。

大多数の企業は、業界のリーダー的な存在ではない。むしろリーダー企業とどのように共存していくかを考える立場であろう。異業種から学ぶべきところは学び、競合と戦わずして勝てる方法を編み出していくというのは目から鱗が落ちる思いがする。

(JAGAT 研究調査部 上野寿)

■関連イベント
「JAGAT大会2015」
 2015年10月9日(金)椿山荘(東京・目白)にて開催
 特別講演には山田英夫氏を招聘し、異業種から学ぶ「競争しない競争戦略」について、語っていただきます。 どうぞご期待ください。