ムラカミはスクリーン印刷の製版、特に電子部品のスクリーンマスク製造が好調である。同社は独自の感光材開発などにより高品質のスクリーンマスクを製造、世界中の電子機器メーカーに提供して業績を伸ばしている。
世界50カ国以上へ販売
オフセット印刷は産業自体が大きくなったこともあり、「自分たちの技術が他の産業で役に立つか?」「何かに利用できるのではないか?」という素朴な発想を忘れがちだが、スクリーン印刷はニッチを最大限の強みにして、その用途(被印刷体)の多様さや膜厚の自由度を生かし、多くの活用分野を広げてきた。
ムラカミの歴史もスクリーン印刷(製版)の技術革新そのもので、最近ではその高精細技術を利用した太陽電池への展開が業績を大きく牽引している。ムラカミは1965 年設立、連結従業員約800 人強、売上高約100 億円のスクリーン印刷向けの製版会社である。印刷は行わずに製版に特化しているが、スクリーン印刷は製版(刷版= 版の製作)自体が難しいので、製版業自体がメインの生業として成り立つというわけだ。
同社は、中小企業ながら積極的に世界に打って出ている。早くから世界市場に注目しグローバル展開しており、中国・台湾・シンガポール・韓国にも工場があり、世界55 カ国の企業と取引がある。販売先は、半導体が先進国(もしくは中国・台湾)、アパレルはバングラディッシュをはじめとした東南アジアである。千葉県に2 カ所、愛知県に2 カ所の国内工場、茨城にも事業所を持っており、千葉にR&D センターがある。
スクリーン印刷は4 大印刷方式(凸版、凹版、平版、孔版)の一つである孔版印刷の代表格である。そのルーツは、日本の友禅の型染めが欧米に伝わり、欧州(英国、フランス、ドイツ)で技術が発明され、アメリカで改良され産業に発達したといわれている。日本では第2 次大戦後、アメリカから持ち込まれたスクリーン製版材料やスクリーン印刷機械に影響を受けて国産品が登場した。
また、昭和20 年代後半からの製版技術の進歩で精密な画像のスクリーン印刷が可能になり、用途が著しく広がった。 実は、我が家も祖父の代から染物をやっており、更紗という型染めで、スクリーン印刷には他人事ではない親近感を持っている。私が印刷に進んだキッカケもここにあるので、スクリーン印刷がやってきた努力や工夫には常々敬意を持っており、オフセット印刷業界の人たちにもアイデアなどを知っていただこうと、今回紹介している。
スクリーン印刷の特徴
4大印刷方式の中でコストや品質が理由でオフセットが主流になっていったのは衆知のことである。孔版は日本が生んだ印刷方式とも言えなくもないが、謄写版は日本ならではと言い切れる技術である。 スクリーン印刷は印刷方式がスキージを基本としているので、そのスキージするときの隙間(感光剤、つまりレジストの厚み)を調整すれば、膜厚を比較的自由にコントロールできる(オフセットやグラビアに比べたらインキの粘性等の自由度は高い)。
そのほかにも特徴はいろいろあるが、スクリーン印刷自体、繊維によるメッシュなので弾性があり、被印刷体を選ばないという長所を持っている。したがって被印刷体は布/ 紙/ プラスチック/ ガラス/ セラミック/ 金属…と多岐にわたっている。また、最近は静電インキを併用することで軟包装材や曲面にまで応用範囲が広がっている(コスト的には絶対的優位までとはいえないが)。その他、インキ膜厚が厚い、初期投資コストが安いなどの特徴がある。
長所
- いろいろな種類の材質に印刷ができる。
スクリーン印刷は被印刷素材を選ばないので、T シャツから自動車計器類の印刷まで幅広い用途がある。 - いろいろな形状・サイズの素材に印刷できる。
- いろいろな種類のインキが使用できる(穴から練り出すわけだから、オフセットやグラビアに比べれば、適用インキの幅は広い)。
- インキを厚膜に印刷できる(一般の版では10〜30μ m、特殊な版を使用すれば100 μ m 以上も可能。点字の印刷もできる)。
- 厚膜に印刷できるので、発色が鮮明で、隠蔽力に優れ、耐候性も良くなる。
- 印刷圧が低いので、壊れやすいものにも印刷できる。
- 版が柔らかいので、紙や布のような柔らかいものからガラス、金属などの硬いものにも印刷できる。
- 版が安価なので、少量印刷の際には有利。
短所
- 統一規格がなく、一社一様である。
しかし、これこそ製版専業メーカーが成り立つ理由にもなっている。 - 支持体がメッシュである。
メッシュ表面のハレーションの影響がある。オフセットでいえば光学的ドットゲインともいうべきもので、メッシュに反射した光が感光剤に影響を与えてしまうということである→再現性が少し劣る。メッシュなので強度の問題は大きい→耐刷力不足。 - 大量生産での印刷速度、大量生産での生産コストが劣る。
極小ロットでは優位性があるといえるが、大量となると難しい。連長のアパレル向けの印刷機も考案されているが、オフ輪などと比較しては勝負にならない。
以上のような長所、短所のあるスクリーン印刷だが、商業印刷に利用するとすれば、2000 枚程度の中量ロットではインクジェットに押され気味とはいえ、色数が少なければまだ生産性、コスト面でメリットは大きい。 また、商業印刷の場合に問題にされることだが、スクリーン印刷はオペークインキを基本にしているので階調のつながりには弱い。現在のスクリーン印刷に高品質な階調再現性を望むのは無理がある。
電子部品用にスクリーン印刷が使われるのも、同様の理由で、まずは空気中だけで何とかできること(半導体は真空なども利用する)が大きい。また、金属などの粉体がインキに使える。これは半導体形成には導電性インキなどを印刷できることが必要なので、スクリーン印刷が使われる絶対的な条件ともなっている。
(全文は『JAGAT info』2015年8月号に掲載・JAGAT 専務理事 郡司 秀明)