出版社におけるコンテンツの一元管理の行方は?

掲載日:2015年9月3日

*DTP制作と電子書籍制作を同時におこなうことは、それほど簡単ではない。コンテンツのXML化や一元管理が重要となる。

出版コンテンツとDTP制作の課題

2014年9月、講談社と日本電気は書籍コンテンツの制作・管理システム、スマート・ソース・エディター(以下SSE)の開発と本格運用を発表した。

国内の多くの出版社では、DTPレイアウトを制作会社や印刷会社に委託しているため、最終原稿のデータ管理や電子書籍・印刷用コンテンツの管理ができていない。
つまり、DTPが最終データとなっているため、再利用するたびにデータ変換が必要となり、校正作業や費用が発生するという問題を抱えている。

紙の書籍を発行するだけの場合、再利用の機会はめったになく、それほど大きな問題とはならなかった。しかし、紙の書籍と電子書籍を同時に刊行するようになると、そのたびに再校正が必要となることは、時間的にも費用面でも明らかに無駄である。

このような問題を根本的に解決するには、コンテンツをアプリケーションや媒体に依存しない形式で一元管理する必要がある。そのために開発されたのがSSEである。

SSEは、Wordデータの取り込み機能、数字や欧文の全角半角を検知し一括修正するなどの原稿整理機能、表記統一、誤用、送り仮名などをチェックする校正・校閲機能を備えている。
保存形式は独自に規定したXML形式であり、アプリケーションや媒体に依存することがない。そのため、再編集や2次利用、電子書籍などへの多メディア展開を容易に実現することができる。

2015年6月には、KADOKAWAがこのシステムを導入したことを発表している。

コンテンツ一元管理の成功事例

国内の出版分野におけるコンテンツのXML化と一元管理の代表的なものとして、辞書コンテンツや大手通信教育企業の例がある。

電子辞書は1990年代に発売され、2000年代には高機能化、コンテンツの充実化が図られ、市場も大きく成長した。
そのため、早くからフォーマット統一や電子機器メーカーとの間で日常的なデータ交換が行われていた。紙の辞書なら改訂版の発行は早くても数年先だが、電子辞書は次々に新製品が発売されるため、毎月のように最新データに更新しなければならない。
その結果、辞書コンテンツの分野では10年以上前からコンテンツのXML化と一元管理が実現されている。

また、ある大手通信教育企業は、主力事業である通信教育の教材制作が課題となっていた。
小中学生向けの教材の内容は、原則としてほとんどが再利用するものである。教科書の違いで、内容は同じでも掲載順が異なる別教材を制作することもある。
しかし、DTPで制作したものは人手が介在するため、必ず校正をしなければならない。手間も費用も発生してしまう。英単語1つでも、毎回毎回スペル・チェックしなければならない。
このような無駄を削減するため、コンテンツのXML化と一元管理を進め、自動組版・制作することで大幅な経費削減と品質向上を実現した。その後の電子化も、まったく問題なく移行できたとのことである。

コンテンツの一元管理は次世代DTPの規範となるか?

完成度の高い原稿制作、コンテンツの一元管理を実現することで、印刷物と電子書籍の製作がよりシンプルとなり、費用面や納期面で大きなメリットとなる。コンテンツを多言語化する際にも、XML化されていると翻訳支援ソフトを使用できるというメリットがある。再利用が前提となる分野において、出版社自身によるコンテンツの一元管理は今後のトレンドとなる可能性が高い。

一方、出版社が独自にシステムを導入・運用するには、当然ながら経費やシステム管理の問題が発生する。例えば、印刷会社がコンテンツのXML化や一元管理を代行することも、ビジネスとして成立する可能性がある。
コンテンツの一元管理は、次世代DTPのキーワードとも言えるだろう。

(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)