*国内の印刷市場が全体として縮小傾向にある中で、デジタル印刷が成長している。デジタル印刷でしか実現できない製作物、ソリューションを提供することが重要なカギとなっている。
成長軌道のデジタル印刷
矢野経済研究所が発表した「デジタル印刷市場に関する調査結果2013」によると、2012年度のデジタル印刷の売上高は2818億円(前年度比5.1%増)となっている。さらに2013年度は2900億円(同2.9%増)を見込み、2014年度は2935億円(同1.2%増)と予測している。
これらの数値から、デジタル印刷は印刷市場全体の5%強ということになる。国内の印刷市場が縮小傾向にある中で、デジタル印刷は成長軌道にあることが判る。
小ロット出版とオンデマンド出版
出版分野において、デジタル印刷による小ロット出版や1冊単位のオンデマンド出版が増えてきた。
米国ライトニングソース社は出版流通大手イングラムの子会社で、年間5,000万冊をオンデマンドで製作している。1オーダーの平均ロットは1.9冊とのことである。実態としては、大半が1冊単位だと推測される。
国内においては、講談社や小学館が自社グループ内にデジタル印刷機と製品システムを導入し、品切れのコミックや文庫・新書の重版を、数百部単位の小ロットで製作している。
デジタルオンデマンド出版センターは、製本方式と用紙の標準化、ジョブギャンギングによって低コストの小ロット出版を実現した出版サービスである。専門書や中小出版社を対象に底本のスキャニングから印刷・製本を、最少ロットは30冊で受託している。
インプレスR&Dは、注文を受けると1冊毎に印刷・製本・出荷するオンデマンド出版に取り組んでいる。初版印刷費が発生せず、在庫レスのため、出版リスクが小さい。技術書や専門書の出版ハードルを大幅に低くすることに成功した。現在は自社出版物だけでなく、他の出版社に対するオンデマンド製作代行と流通サービスとして提供している。
オンデマンドカタログと在庫レスソリューション
ある日用品メーカーが製作した販促ツールを追跡調査すると、使用されなかった在庫が25%、店頭に掲出されなかった分が45%、つまり70%が廃棄されていたことが判明した。その理由の1つは必要以上の部数を製作していたこと、もう1つは現場での評判が低く使用されなかったことである。
そのため、このメーカーは次年度から販促ツールをオンデマンド型に変えることとなった。販促ツールの在庫管理システムを構築し、適正な在庫をキープする。注文や在庫数に応じてオンデマンドで補充する仕組みである。
この例は、顧客の課題をトータルに解決するソリューションとしてデジタル印刷が重要な位置づけにあることを示している。
ソリューション提供とデジタル印刷
デジタル印刷を従来の生産手段の延長として捉えると、1枚あたりの単価が高い、低いと言った議論になることが多い。また、オフセット印刷と同じ用紙、同じ品質に拘ってしまうとビジネスの範囲を限定してしまうことになる。
オンデマンドカタログを発注するためのWeb to Print 、少ロット出版や出版物の流通在庫を削減する試み、テストマーケティングのためのパッケージ製作など、従来の仕組みや枠組みを超えて、顧客の問題を解決すること、それを追求することが重要なカギを握っていると言えるだろう。
(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)
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