※本記事の内容は掲載当時のものです。
アナログ博物館:鋳造機の機能と特徴
3.自動鋳植機を理解する
活字を自動的に鋳造すると同時に植字をも行なう機械を自動鋳植機という。英米では1822年ごろから植字の機械化を研究していて,鋳造を同時に行なうようになったのは1900年末ごろからである。
1)モノタイプ
今からおよそ70年前,アメリカ人トルバート=ランストン(1844-1913)が1885-97年に発明,完成した。原理は自動ピアノからヒントを得たものと伝えられる。巻き紙に穴をあけたものをピアノにかけると,自動的に音楽が演奏されるのと同じ形式である。今日一般に普及している型は,その後の後継者の研究と努力によって完成されたもので,原理は当時とはまったく変わっていない。現在の形式はすでに50年を経ているといわれ,機械の精度・強度は驚くべきものがある。機械はキーボード(▼図4-2)
とキャスター(▲図4-3)の2基に分かれ,機械の磨耗箇所の部品を交換することによって,すぐれた性能は少しも衰えず,長期の使用に耐える。モノタイプは1本(mono-,ひとつの)ずつ活字を鋳込んで(▼図4-4)組み版する(▼図4-5)。
その点,1行ずつ鋳植するライノタイプ(Linotype,1行のタイプ)とはおのずから性能が異なる。ライノタイプはおもに新聞雑誌に利用され,モノタイプは書籍の組み版が主である。わが国には現在30台近くが輸入されている。(▼図4-6)
2)邦文モノタイプ
大正9年ごろ,杉本京太氏が発明したといわれる。初めは縦形で,前面に大きな母型盤があって,母型盤を手で前後左右に動かして,所要文字を鋳造部の鋳口のところへもっていき,圧着させると文字が1本ずつ鋳込まれ,搬送されて組み版ができる。一時は大量に生産されたが,文字のよりひきの不安定,母型損耗などの欠陥が顕著なため,一般的に普及するに至らなかった。しかし,昭和22-23年ごろになって,ふたたびモノタイプの研究が盛んになり,製造業者も2-3を数え,今日の邦文モノタイプの基礎を築いた。この風潮を刺激したのは,いうまでもなくベントン型彫刻機のわが国における製造である。この彫刻機の原型は,終戦まで3台しか輸入されていなかった。大蔵省印刷局・三省堂・築地活版製造所(後に凸版印刷に移る)の3者で所有していたものを終戦後スケッチして製造したのが最初で,津上製作所が本格的に開発して今日の普及をみた。
手動式邦文モノタイプは,母型盤も円筒式と平盤式とがある。現在,全自動式の機械が新聞社専用の域から一般印刷業者の工場へ普及されつつあるが,機構的な弱点や製品の精度など,まだまだ研究の余地があり,特に活字地金の検討が不十分のように思われる。
また,新聞社以外,一般印刷工場用の全自動組み版機は,昭和41年6月小池製作所が開発した。ランストンのモノタイプの圧搾空気機構が電気的な処理に変更されている。キーボードで指定の文字をさん孔すると,同時に外字の不足文字が挿入符号によって記録され,別に用意されたケースから文字を選別しておく。このテープをキャスターにかけると,文字が選別されて鋳造,組み版を行なう。別に拾われた外字は,挿入チャックに並べることによって解決する。収容字母数は,使用度の高いゴシックや約ものなど480字,明朝1120字,合計1600字で,これ以外に外字として2520字を用意している。
3)ライノタイプ
ライノタイプの構想は,1870年ごろ解版の機械化からヒントを得たといわれる。マーゲンターラー(Ottomar Mergenthaler,1854-99)が現在のような型を完成したのは1890年と記録される。ライノタイプは,上部に母型庫があり,鍵盤のキーを押すと母型が1本ずつ落下してきて手元に並ぶ。1字を打ち1語がそろうとスペースバンドを打ち,1行いっぱいになるとスペースバンドを突き上げて行をそろえ,鋳型に接着して1行を鋳込む。スペースバンドはくさび形の薄い板で,これを語間に入れて下から突き上げるから,語間が平均に開いて行の左右をそろえる。鋳込みを終えた母型は上部の母型庫に搬送され,母型につけられた溝によって分類されながらそれぞれの母型庫に戻される。これを繰り返して組み版する(▼図4-8)。
鋳込まれた文章は1行の塊(スラッグ)になっているため,訂正がある場合には,1行を打ちかえなければならず,モノタイプのように1本ずつ差しかえることができない。しかし,モノタイプのように2基が1セットになって鋳植されるのとちがい,1基ですべて植字と鋳造を行なうので,スピードの点からも新聞雑誌むきの鋳植機といわれている。
ライノタイプがわが国にはいったのは明治36年印刷局がはじめてである。英字新聞社には随時はいっていたが,一般の印刷所にはいったのは三秀舎に英国製がはいったのがはじめてである。
4)インタータイプ
ライノタイプと同型同機構で,インタータイプ機がある。これは1912年アメリカのリッダー(H.Ridder)がライノタイプの特徴と自己の主張を採り入れて設計したもので,その性能はほとんど同じといってよい。
5)ラドロー鋳植機
アメリカのラドロー(Ludlow)会社の製造する欧文の見出し語の鋳植機である。特に英字新聞社にはなくてはならない機械である。母型を母型ダンスから手で拾ってステッキに並べ,鋳込み機にかけてスラッグに鋳込むので,操作が簡単で,大きな活字(96ポイントまで)が鋳込める。特別な措置をすれば128ポイントから240ポイントの特大活字も鋳込める。また,斜めの母型を用いればイタリック体(斜体)の見出しも鋳込むことができる。わが国でも,小池製作所が新聞見出し用の和文鋳植機を製造しているが,ラドローの形式を踏襲したものである。
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)