※本記事の内容は掲載当時のものです。
アナログ博物館:ページ物印刷物企画 [企画]
5. 造本設計の進め方
5.1 造本設計の項目とポイント
企画段階での見積りに,最低限度必要な項目は決めておかないと,制作へ進むことができません。
数値化して決定できるものもありますが,数値化できないものへの対応がポイントになります。
・数値化できるもの
(1)納期,(2)入稿日,(3)仕上りサイズ,(4)ページ数,(5)色数,(6)部数,(7)写真点数(モノクロ・カラー),(8)印刷方法,(9)イラスト・図版・表組・トレースなどのおよその点数,(10)総予算
・数値化できにくいもの
(1)仕上り時のデザインイメージ(用紙,製本様式)
(2)品質要求度
そのほかに,企画段階では不明確であるが,後の制作費用に大きく影響するものとして,次の項目があげられます。
(1)文字原稿の状態
(2)写真・イラスト原稿の状態
(3)原稿訂正の可能性
(4)編集上の処理形態,二次使用の可能性
企画の煮詰めは,明確な部分と不明確な部分を常に分けながら,とくに数値で表現できない部分を一つ一つ埋めていく作業をしなければなりません。出版社などの専門家の集団でなければ外部のアドバイザに社内情報や材料を提示して,専門知識の不足による不明確な部分を明らかにしていく努力をしなければなりません。この時点では個々の工程の単価が高いか安いかは無意味なことも多く,見積り先の単価提示に振りまわされないように気をつけましょう。
〔あらゆる見本を作る〕
企画段階は不確定要素が多いので,可能な限り実際に近い見本を作ることが大切な作業になります。
例えば,
・イメージに近い本を集める
・見本組見本を作る
・イラスト見本を書く
・見本刷を作る
・束見本を作る
・原稿用紙や割付用紙の見本を作る
・予定進行表を作る
ことなどです。
これによって,制作にかかわる内外の人々が仕上りイメージに近いものを見て役割分担できて,後工程でのトラブルを防ぎ,見積り金額と現場作業の整合性をもたせることができるものです。
また,このような努力をすることで,お互いの負担を軽減し,よいチームワークを保てることになります。
〔企画の最終確認は上司と〕
方針がある程度固まり,全体に作業開始と思われるところまでいったときは,最終決定権をもっている人の最終確認が必要です。印刷会社などに対しても営業マンが初級レベルの場合は,課長・部長に同席してもらって,各役割分担のキーマンと権限の流れについてお互いに確認しておくことは,トラブルが発生した場合に重要なポイントになるからです。
本づくりは編集プロダクションが介在することが多いのですが,編集プロダクションが得意先や印刷会社とうまくコミュニケーションができないケースがよくあります。そこを補完するためには節目節目で,作業の動きや了解状況を探っておくべきでしょう。
とくに一般企業の社史,会社案内・営業案内,商品カタログ,PR誌などの製作では,社長や事業本部長・取締役などの決定権者のチェックなどによって基本構想が変更になる可能性もあります。
さらに多くの場合,詳細部分は企画段階で決まらないまま動きはじめ,走りながら固めていきます。印刷物作りがビジネスと連動しているのでやむをえないことですが,それだけに最新の状況についてよく把握しておくことが,大変重要です。
5.2 造本設計の実際
企画イメージを具体的に造本設計をしていくためには,次のような項目内容について具体的に決定する必要があります。
(1)判型
(2)本文(基本体裁・写真・イラスト・グラフ・表組など)
(3)表紙など(表紙・扉・口絵・カバーなど)
(4)広告の量(広告のページ数,広告制作の有無)
(5)ページ数・部数
(6)製版(色数・アミ処理・ダイレクト刷版など)
(7)印刷(軽印刷・枚葉機・輪転機)
(8)製本(中トジ・無線トジ・上製本)
(9)用紙
(10)梱包・納品・搬入方法
(11))納期
〔造本設計の決定〕
第一に編集方針に合った造本のかたちを検討することです。そのためにはいろいろな出版しようとするものの類似書や企画イメージに近い印刷物を集めて誌面イメージを検討します。
検討の方法としては,予想される編集企画内容のページを,既存の印刷物データを利用して見本(ダミー)を作ってみることです。このようにして作った見本それぞれについて,品質,コストや作業性を検討します。
ときによってこの見本づくりは,数回,数十回と繰り返され,企画・編集会議での検討と同時に,実際にテスト版・パイロット版として見本を本格的に印刷する場合もあります。
雑誌のテスト版・パイロット版は,広告主へのPRや書店・取次店へのデモンストレーションも兼ねており,創刊号発行までの間に数回発行されることもあります。このような準備は書籍でも辞書や百科事典・全集本・シリーズ本などの場合には,よくあることです。
このような実作業を通じて,出版の計画が決定されますが,この段階で,印刷関係のスタッフとして営業マンをはじめ,技術者やプリンティングディレクターが加わり,造本コストの合理化の方法や原稿の作り方を話し合えば,編集・造本の仕事がうまく進められ,安くて早く,よいものが作れます。そのためには,印刷会社が企画段階から編集の参考になるような各種の資料を提出してくれて,編集側の希望を具体的に考えやすいようにサポートを依頼することが大切です。
〔企画・制作の総合管理〕
企画イメージがしだいに固まり,具体的な編集方針(ポリシー)が決りますと,その編集方針に基づいて造本計画から編集内容,制作・進行・納品までをすべて管理するディレクターが必要です。
一般に企画・編集内容は,出版社であれば出版部長や編集長であり,誌面構成上のデザインについてはアートディレクターや制作部長,印刷会社のプリンティングディレクターとよばれる人々によって管理されます。
一般企業や非専門家である場合は,窓口担当者や編集プロダクションの編集者などと上手に連係しながら,印刷会社の営業マンがかなりの部分をリード・管理することもあります。
ディレクタの主要な仕事である総合管理とは段取りと手配です。
3. 見積り準備
一般企業のPR誌や会社案内・商品カタログ・社内報などでは,企画・デザインから印刷・製本までが外注で,それらの見積りが必要になります。仕事の質やかかるコストはもちろん,会社の力量,信頼にも大きく影響します。企画・デザイン分野の料金は,デザイナの知名度や実績,内容の特殊度・難易度などによって大きく変ってきますので,外注先は内容別・キャリア別などできるだけバラエティーに富んだ協力会社を確保しておいて,いろいろなレベルの要望に応えられるようにする必要があります。
〔見積り項目〕
企画・デザインの見積り項目として大きく分けますと,次のようなものがあげられます。
(1)調査
(2)企画
(3)ディレクション
(4)コピー
(5)イラスト
(6)デザイン
(7)撮影
以上の詳細な内容は別記事を参照してください。このような仕事がどの印刷にもあてはまるというわけではありませんが,作業は各々の専門家が分担して行います。ディレクタはこれらの専門家および企業に依頼手配を行い,印刷物依頼側との仲介役を果たさなければなりません。広告業界では,企画を総合的に管理できる能力をもったAE(Account Executive)という人がいますが,印刷業界ではプリンティングディレクタがまさにAE的存在です。
5.4 原稿と制作環境
印刷物の固定費コストの多くは,前工程(プリプレス,DTP)でかかりますので,手早く仕上げる必要があります。そのための工夫が大切で,専門の制作環境を作ったり,専用のレイアウト用紙を用意したりすることによって,あとでの訂正を減らすことができ,コストや納期を改善することができます。例えば表組のために表組用原稿用紙とかエクセルのテンプレートを作って,表組の体裁を考えながら原稿を作れば,編集担当者もDTP現場のオペレーターも手間が大幅に省けますし,レイアウト上の表組のスペース取りもしやすくなるわけです。
〔原稿ルール〕
・基本組と同じ字詰のテキスト入力をする。
・本文用と図表類やキャプション用のマーカやタグを決める。
以上のような原稿ルールを作り、関係者に合理的ワークフローを準備してもらいます。
〔レイアウト用紙〕
アナログの時代からお互いに合理的に作業を進めていくためにはレイアウト用紙が必要不可欠でした。最近は,DTPでマスタページ,テンプレートなどの段取りができるので、いろいろワークフローに連動した専用のレイアウト用紙を用意することが作業効率を改善させます。
レイアウト用紙の条件は次のようなものです。
・基本組の位置表示が正しくしめされていること。
・仕上り線・製版線が表示されていること(裁ち落し分は3~5ミリ)。
・見開き2ページ建てであること。
・グリッドは淡くて見やすい色(セピア・青・緑・グレーなど)であること。スミなど濃い色は製版指定・レイアウト指定とまぎらわしく,誤解のもとになります。
・用紙は厚からず薄からず(四六判70kg前後)
・上質紙などで,書き込みしやすい紙質であること。(コート紙・アート紙は不可)
・平トジ,無線トジなどでノドが裁ち落されるものは,ノド部に6ミリの落し分を見込む。
・中トジでかなりのページ数になる場合は,外側の仕上りと最も内側の仕上りでは最終仕上りの左右の大きさに数ミリの差が生じます。内側へいくにしたがって小口の仕上り線を少しずつ内側へずらしていくための基準線を束見本によって計算しておきます。
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)