※本記事の内容は掲載当時のものです。
アナログ博物館:アイデア印刷術 1.インクジェット印刷〔1〕
インクジェット印刷〔1〕
はじめに
今回はインクジェット印刷全般の講座ということで,基本的な構造,特徴・利点,各種事例を紹介する。一般家庭のPC,オンデマンド印刷の発展とともに,少ロット対応のプリンタはさまざま出現しているが,その中でインクジェット印刷は最も普及しており,最も注目されている分野だと言える。これらの全体像を理解することを念頭にまとめてみた。
比較分類表を利用した記述もあるが,これは一般論的な内容になっており,個別製品単位ではないことを断っておきたい。
1. インクジェット印刷の概要
インクジェット方式は,現在最も普及しているプリンタであり,最も進歩の早いプリンタでもある。そのためモデルサイクルが短く,すぐに新機種が登場する。
民生用(パーソナルユース)のレーザビームプリンタやコピー機の場合,プリントのための主要パーツは,「メディア=紙」を走行させるための給紙機構のほかに,トナー(インク)の供給機構,加熱定着機構が必要であり,非常に複雑な機構になっている。それに比べインクジェット方式は,大まかに言えば,インクを射出する機構「プリンタヘッド」と給紙機構の2つで構成され,非常にシンプルにできている。
そのため本体価格が非常に安価であり,広く普及されている。また,機構がシンプルなため,展開の幅も広く,多種多様な用途へ向けた,さまざまなインクジェット方式がある。
2. インクジェット印刷の分類
〔1〕インクジェット印刷の位置付け
インクジェット印刷を広義のプリンタとして見ると,その特徴については表1のような比較分類表となる。これを見ると,インクジェット方式は,大きな欠点がなく,ほかのプリンタに比べ,優等生的な位置にあることが分かる。
また,プリンタにはページ単位で印刷する「ページプリンタ」と,ドット単位で印刷する「シリアルプリンタ」に分かれ,インクジェット方式は後者に当たり,大判も対応可能という特徴がある。
※以下の表は一般的な分類で,個々の方式の中でも優位差の幅がある。
〔2〕インクジェット印刷の基本機構
以下に代表的な2つのインクジェット方式について特徴をまとめた。どちらも一長一短がある。
【ピエゾ方式】ピエゾ素子(電圧素子)に電圧を加えることで収縮し,タンクにインキが吸入される。
ピエゾ素子に逆の電圧を加え,変形の圧力を利用してインキを吐き出す。
〈特徴〉
・電圧変化をコントロールすることで,サイズの異なるインキ滴の打ち分けが可能である。
・ヘッドに熱が加わらないため,幅広いインキ適性がある。
・コスト面,印刷速度面では若干不利である。
【サーマルジェット方式】ヘッド内のヒーターでインキを急激に加熱し,発生させた気泡の圧力でインキを吐き出す。
ヒーターの加熱を止め気泡を消すことでインキ射出量をコントロールする。
〈特徴〉
・構造が単純なので,印刷速度が速く,コストダウンしやすい。
・加熱方式のため,水系溶媒のインキに限定される。
〔3〕インキの種類
さまざまな特性のインキがあるが,上述のヘッド部の機構によって,使用できるインキ物性は制約を受ける。ヘッド機構・用紙の開発に加え,インキの発展は,印刷品質の向上に大きく貢献している。表2にインキを構成する要素と特徴をまとめた。
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)