このたび『印刷白書2015』が完成、発刊の運びとなりました。刊行のご挨拶を申し上げます。
2015年の経済情勢を見ますと、アメリカ経済は雇用環境が改善し個人消費も持ち直してお り、順調な景気回復が続いていますが、年内には金融政策正常化の動きも予想されます。
一方、日本経済は日銀が消費者物価の上昇率2%目標のため、2014 年10 月に「量的・質 的金融緩和」の拡大を実施し、為替は120 円台、株価も2 万円台をつけましたが、中国の 景気先行きの不安から株価は乱高下しており、景気の回復基調が弱まりつつあります。
紙メディアである印刷に関係のある出来事としては、2014 年来の増税の影響やコミッ クスなどのデジタル化の影響で雑誌や書籍の出版物の返本率が上昇して40%程度となり、 夏には取次会社の経営破綻が起こり、出版界は混乱しました。音楽の世界ではLINE や Apple による定額配信が始まり、最近ではGoogle もサービスを始めると発表されました。 Bluetooth のおかげでスマートフォンとスピーカーさえあればどこでも自分の好きな音楽 が聴ける世の中となりました。
かつてニコラス・ネグロポンテ教授は1995 年に著書『ビーイング・デジタル―ビット の時代』で世の中はアトムの経済からビットの経済へと移行していくと述べましたが、事 実、毎年こうした変化が起こっています。急速に変わっていく世界では、企業は現代的な 存在となることが求められます。日本印刷産業連合会でも最近、「新しい価値創造に邁進 し、持続可能な社会の発展に貢献する」というミッションステートメントを発表し、その 存在意義を明確にしています。
2015 年は9 月に印刷機材団体協議会主催のIGAS2015 が東京ビッグサイトで開催され ました。各社のブースではアプリケーションに応じて各種のデジタル印刷機が展示され、 カラーインクジェットプリンターも解像度1200dpi の高精細な品質が可能となり、DPS (データプリントサービス)が主体の世界から今後は商業印刷分野での利用が可能となりそ うです。電子写真方式では限定的だった小部数の印刷も、最新のインクジェットプリンター ならば一般的な産業用途でも徐々に導入が進んでいくと予想されます。
また、紙の上への 印刷だけでなく原反がフィルムの軟包装の分野や、箔押し、UV ニス加工などの表面加工 の分野、打ち抜き加工などの分野でも新しいデジタル機の展示が見られました。
絶えず変化していく経営環境で、市場の動向、技術のトレンドや、産業の経営課題につ いて研究調査したこの『印刷白書2015』が関係各位の未来のチャレンジに参考となるこ とを願っております。
2015 年10 月
公益社団法人日本印刷技術協会
会長 塚田司郎