著作権、商標権は印刷ビジネスにとっても重要な問題で、適切な対応によって信頼を得るためにも大筋は理解しておく必要がある。
五輪エンブレム、国民参加の審査は実現するか
東京五輪の新エンブレムの応募要項が10月16日に発表された。応募条件は前回に比べて大幅に緩和され、18歳以上で国内在住なら国籍は問わず、経験やデザイン関連の受賞歴は不問となった。前回は国内外の指定された賞を過去に複数回受賞したデザイナーに限定されていたことから応募は104件のみだった。今回は個人だけでなく10人以内のグループでの応募も可能で、グループ内に子供や外国人を含むことも認められた。また、応募作品をインターネット上で公開して投票してもらうなど、開かれた形での選考方法も検討していくという。
白紙撤回に至ったエンブレムでは、オリジナルかどうかという検証がネット内で重ねられるうちに、作者のクリエーターとしての資質や、選考過程への疑念などに問題が広がって、著作権侵害に当たるかどうかの結論は出ないままにリセットされた。これに対して、桜をモチーフにしたリースの招致ロゴマークは、完全公募による学生の作品ながら多くの人に親しまれた。仕切り直しとなったエンブレムはどのような作品になるのだろうか。
開かれた形での選考方法には課題も多い。エンブレムを商標登録前に公表すると、第三者に先に登録されるおそれがある。応募総数が大幅に拡大した場合、そこから候補を数点に絞り商標登録したうえで国民投票をするには、財政的、時間的な問題をクリアしなければならないからだ。
著作権、商標権の尊重はビジネスだけの問題ではない
公式エンブレムに関するゴタゴタでは、ネット炎上の怖さや、「パクリ」「コピペ」という言葉が市民権を得ていることを知らしめる結果となった。
「著作権」は知的財産権(知的所有権)の一つで文化的な創作物を保護の対象とする。また、特許権、実用新案権、意匠権、商標権といった「産業財産権(工業所有権)」も知的財産権の一つである。
産業財産権(工業所有権)は登録しなければ権利が発生しないが、著作権は著作物を創作した時点で自動的に発生するもので、著作者の死後50年まで保護されるのが原則である。保護期間は国によって異なり、アメリカやEU加盟国では死後70年となっている。
海賊版やコピー商品が横行する国は、経済的に発展していても、文化的な後進国とみなされることになる。
なぜ「パクリ」「コピペ」が問題かというと、創作物を生み出す活力を失わせ、短期的には利益が上がっても、長期的にはクリエイターの流出などにより、国全体の活力を失わせる結果になるからだ。
デジタル時代になって、模倣やコピーは容易になったが、露見するスピードも速くなり、そのダメージも計り知れないものになっている。
印刷ビジネスにとっても著作権、商標権は関係の深い問題で、大筋は理解しておく必要があるだろう。
前回のエンブレムでは、ベルギーの劇場ロゴとの類似性が問題になったが、それだけで著作権侵害になるわけではない。著作権侵害の成立には、訴える側の作品が著作物であること、その著作物を利用して作られたものであること(依拠性)、表現が類似していること(類似性)の3要件すべてを立証する必要があるからだ。
アルファベットの組み合わせのような比較的シンプルなロゴマークは著作物には当たらないと考えられていることから、必要に応じて商標登録で守られるのが一般的である。劇場ロゴが商標登録されていなかったために、著作権侵害の問題となったが、たとえ劇場ロゴが著作物として認められたとしても、類似性が厳しく判断されることになり、依拠性の判断にまで至らないとみられる。
著作権は表現の自由の問題でもある。芸術の世界では本歌取りのような先行作品を踏まえた表現技法が確立している。そこに先行作品に対する敬意と、創作性があれば「パクリ」になることはあり得ない。知的財産権を尊重するということは、文化的な成熟度を示すことにもなる。
(JAGAT CS部 吉村マチ子)
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