顧客中心主義とデジタルマーケティング

掲載日:2016年6月27日

個々の顧客の情報を統括して管理(パーソナライズ)し、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験価値)を向上させるデジタルマーケティングが、企業の重要な課題となりつつある。

デジタルマーケティングが求められる背景

少し前までは、Web マーケティングに注目が集まっていた。
それに対して、より大きな概念がデジタルマーケティングである。Web サイトでの集客だけでなく、過去の製品購入者やポイントカード会員、店舗来場者などすべての顧客から適切にパーソナライズし、すべての顧客接点において最適なアプローチを考え、実施することで、優良顧客へと導くことである。

そのため、先進的な大企業ではデジタルマーケティングの専門部署を設立する動きがある。
製品や事業ごとのアプローチではなく、横断的に顧客を把握してカスタマーエクスペリエンス(顧客体験価値)の向上を目指している。デジタルマーケティングの代表的なソリューションがAdobe Marketing Cloud である。

企業に求められる「デジタル変革」

2015年に開催されたアドビ・デジタルマーケティング・シンポジウムでは、アドビ日本法人の代表取締役社長、佐分利ユージン氏は「モバイルデバイスやソーシャルメディアが普及し、日常生活とデジタルは切り離せないものになっている。カスタマーエクスペリエンスの善し悪しによって、企業や購買が顧客から選別されることが増えている。これらに対応するには、デジタル時代に即したビジネスへの変革が企業に求められている」と話した。

アドビシステムズ本社のデジタルマーケティング事業責任者のジョン・メラー氏は次のように講演した。
企業は優れたカスタマージャーニーを提供するために全力を挙げなければならない。マーケティング部門だけでなく、IT 部門や役員も一体となる必要がある。
あらゆる顧客接点において、個々の顧客にパーソナライズされた体験を提供することが必要だ。カスタマーエクスペリエンスの中心は、モバイルである。
デジタルの現実を受け入れない企業は、消費者から見放されてしまうだろう。

ソニーマーケティング代表取締役社長の河野弘氏は、デジタルマーケティングの活用によって、ソニーファンの創造を目指していると語った。Web の登録者やイベントの参加者、製品購入者、SNS 登録者など行動履歴に応じた案内や告知を行い、ソニーファンを創造することが重要だと考えている。

全日本空輸(ANA)マーケティング室デジタルマーケティングチームリーダーの冨満康之氏は、チケット予約中心のデジタル活用から、カスタマーエクスペリエンスへの変革について触れた。
ANA の国内チケットの9 割はWeb 予約である。以前は、デジタル活用と言えばチケットの予約機能の開発・改善が中心だった。現在は、単に予約だけではなく、コミュニケーション、サービス提供まで考えなくてはならない。しかも、ほとんどの顧客がスマホを使用している。顧客との接点を横断的に捉え、考えていくことが求められている。

顧客中心主義とカスタマーエクスペリエンス

会員制度やポイントカードの利用は消費者から見ると少しでも割安に購入するための手段だが、企業から見ると繰り返し製品購入やサービスを利用してくれる最重要顧客である。しかも個人のプロファイルやWebやモバイルでのアクセス履歴、購入履歴を細かく把握できる。

Web やモバイルサイトで会員登録した顧客、製品を購入してユーザー登録した顧客などを統括的に管理することで、企業は顧客の一人ひとりに応じたマイページの提供やコンテンツ配信、キャンペーン告知などを行うことができる。重要な顧客には特別なDM(印刷物)を送ることで、大きな効果を期待することができる。

デジタルマーケティングは、顧客一人ひとりから見た企業や製品、コミュニケーションの価値を向上させる顧客中心の活動である。今後の大きな流れとなっていくだろう。

(研究調査部 千葉 弘幸)