新型車両の導入により、デジタルサイネージ化が一層進む。
印刷関係者には鉄道を趣味にする人は多く、撮り鉄(SL を写真撮影したりする趣味)や乗り鉄(カシオペアなどの特徴ある列車に乗るためだけを主目的に旅行する趣味)を極めた人も数多い。
かく言う私もその一人なのだが、鉄道にまつわることならどんなことでも興味があるという好き者である。特に中吊り広告については、芸能ネタから政治社会問題などのタイトルが気になるのは言うまでもないが、画像の仕上げ方や色使いのセンスなどにもついつい注意がいってしまい、ケチをつけたくなってしまう。
こういう性癖を持った印刷関係者は多いはずであり、山手線にデジタルサイネージが装備され、試行錯誤の挙句に二台の並列置き(右に運行情報、左に宣伝)として結論付けられても、中吊り論議には花が咲いていたのである。
関東地区だけの放送なのかもしれないが、日曜日の13:00 から森本毅郎氏が司会者を務める「噂の東京マガジン」という番組がTBS系列で放送されているのだが、オープニングに「中吊り大賞」という人気コーナーがあった。各週刊誌の中吊りの中から、気の利いたモノに賞をあげようという企画なのである。ところが週刊誌も中吊りを出す雑誌が減ってきて、ついにこのコーナーも「見出し大賞」というコーナー名に変更されてしまったのだ。
これに呼応するというわけでもないが、東日本旅客鉄道は2014 年7 月2 日、山手線に新型通勤車両「E235 系」を投入すると発表した。新型車両はIT 設備を大幅に拡充したのが大きな特徴だ。これまでに有名な山手線車両といえば、103 系であり、ウグイス色の山手線を定着させた名(電)車といえる。現在走っているのは、少しウエストから上が太くなっている(下部が絞り込まれている)ステンレス製のE231 系といわれるもので、二画面のサイネージが備わっている。
今回発表されたE235 系では、山手線の現行車両で導入が始まっているスマートフォン向け運行・車両情報配信サービス「山手線トレインネット」の情報提供装置を標準で搭載して、車内・車外間の情報ネットワークを強化し、車両の機器類に搭載したセンサーから収集した情報をサーバーに集約する仕組みも備えている。故障の予兆を把握したり、故障発生時の復旧を迅速化したりするために役立てられるわけである。
そして印刷業界としての重大事は、車内広告にはデジタルサイネージを全面採用し、中吊りなど紙の広告をなくし、車内空間をすっきりさせるということである。CG でのイメージ図を見てもらえば分かるが、外観にそれほど変化はないのだが、内部は大きく変わっている。両端上部の現在紙広告スペースになっているところが一列デジタルサイネージになっており、情報量では現在の中吊りを凌駕するというのである。動画で、手を変え品を変えて、番組配信する手法はやはり情報量が多くなるのだろう。対して中吊りはアルバイトを使っての交換作業など、面倒でコストが掛かることばかりである。
デジタルサイネージなら細かい番組配信スケジュールを組むことも可能で、例えば横須賀・総武線直通運転なら東京駅を境にしてコンテンツを変更することだってたやすいのである。
まだまだと言っていた駅構内のデジタルサイネージも数年経ってみると、完全に紙のポスターを追いやってしまった。新宿や品川といった当初からデジタルサイネージが集約していた駅だけではなく、東京駅などのデジタルサイネージの充実ぶりには目を見張るものがある。
紙のポスターが残っているのは大判のインクジェットプリンター(UV タイプが多いと思うが)で、デジタルサイネージの中でも何とか存在感をアピールしているというイメージだろう。
E235 系は2015年3月以降に量産先行車10 両分を新造し、改造車1 両を加えた11 両編成で走行試験を実施する。2015 年秋ごろから営業運転を開始する予定である。
(JAGAT 理事 郡司 秀明)