公益社団法人日本印刷技術協会の会員大会であるJAGAT大会2015は、「印刷のイノベーション–デジタル、マーケティング、競争戦略–」をテーマに、2015年10月9日(金)に開催された。
参加者には発行されたばかりの『印刷白書2015』をいち早くお渡しすることができた。また、特別講演では早稲田大学ビジネススクール教授 山田英夫氏に「異業種に学ぶ『競争しない競争戦略』-収益を生むイノベーションとは」というタイトルで講演いただいた。『JAGAT info11』月号では、山田英夫氏の特別講演の模様を紹介する。
JAGAT大会は、第1部と第2部に分かれ、花崎博己JAGAT副会長による「JAGATからの報告」でスタートした。花崎副会長はビジネス環境の変化に直面している状況で、この変化を追い風にできるか、向かい風になるかでビジネスに大きく影響する。追い風にするためには視点を変えてみることも重要だとあいさつを行った。
Keynoteとして、JAGATの塚田司郎会長が、「『未来を創る』にみる新しい企業経営とは」のタイトルで講演を行った。講演ではベルギーのラベルエキスポを見学した様子を紹介するとともに、印刷を取り巻く市場環境で起こっていることなどに言及した。また、今年発刊した『未来を創る』の内容にふれ、印刷企業が2020年までにできること、やるべきことについて、ヨーロッパの会社の事例などを交えつつ紹介した。
続いて、JAGAT新刊本から読み解く印刷業界の最新動向ということで、JAGAT研究調査部長の藤井建人が『JAGAT印刷産業経営動向調査2015』+『印刷白書2015』+『印刷会社と地域活性』にみる業界動向をタイトルに講演を行った。最後にJAGAT専務理事の郡司秀明が『未来を創る-THIS PINT FORWARD』+『デジタル印刷レポート』にみる印刷の未来をタイトルに講演を行った。マーケティングのあり方が変化しており、マスマーケティングが重要視される時代から個人と向き合うマーケティングの時代になって、ITの活用は不可欠になったこと指摘した。
第2部は、山田英夫氏が競争しない競争戦略について講演した。山田氏は、競争しない競争戦略について解説するにあたって、前提として競争は一概に悪いモノというわけではなく、企業にとってメリットとデメリットの2つの面があるとした。
その上で競争戦略にはニッチ戦略と協調戦略の2つがあり、ニッチ戦略は、リーダー(企業)と戦わない戦略で、ニッチと似たような言葉に「差別化」があるが、こちらはリーダーと戦う戦略だと指摘した。つまり、リーダーとは違う市場で戦うのがニッチ戦略で、例えばリーダーをしのぐ技術を持っていることや、市場規模や利益率などの量的物差しに関してリーダーと戦わない方法である。もう一つの協調戦略は、相手企業のバリューチェーンに張り込むことで、入り込む企業の価値が高ければ、相手企業は潰すよりも使ったほうが有利になるというわけである。講演で山田氏はニッチ戦略を考えるにあたって質的限定と量的限定の2つの軸をもとに、さまざまニッチのあり方に言及し、それぞれのニッチについて具体的な企業の実例を挙げながら戦略を解説した。協調戦略については4つの類型に分けて、それぞれの類型に当てはまる企業の実例を挙げて戦略を解説した。
このほかJAGAT info 11月号では、来年2月3~5日に開催されるpage2016のテーマ「未来を創る」–メディアビジネスの可能性–を紹介するとともに、このテーマの狙いを解説している。経営者インタビューはミユキ印刷代表取締役社長の鈴木富久氏に、変革期はチャンスでもあるとし、デジタル印刷機時代の新展開に挑む経営について語っていただいた。
(JAGAT info編集担当 小野寺仁志)
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