近刊 『印刷産業経営動向調査2015』 には「○年ぶり」に好転という表現が目立つ。印刷経営を巡る状況は悪化や低下を示す指標ばかりではなくなってきた。まさに転換点にある。従来の経営スタンスでは増収減益の経営構造に陥りやすい。どのような変化が起きていて、どのような対応をすべきか、考えたい。
なぜ、印刷会社の業績は増収減益になったのか
売上高は2年連続プラスと改善基調が続いている。一方、経常利益率は5年ぶりに低下した。景気回復に物価高・増税など名目的な売上高押し上げ要因が重なっている。ある意味、見かけの売上高はかつてなく上昇しやすいが、支出額も上昇するため、価格転嫁の時間差で多くの印刷会社の利益率は低下しやすい。物価上昇時代に従来どおりデフレ時代の縮小均衡経営を続けると、微増収減益のような経営構造になる。支出のコントロールと同様に、成長性を追求して実質的な売上高を上積みすることの重要性が高まっている。
脱デフレと景気回復、投資拡大は何を印刷にもたらすか
1人当り売上高が3年連続で改善した。印刷経営者の設備投資に対するスタンスは「増やす」が4年ぶりに増え、減少傾向にあった1人当り機械装置額は4年ぶりの増加に転じた。このような状況下で1人当り人件費が5年ぶりに増えたことは、生産性の改善がいよいよ従業員待遇の見直しに波及し始めたことを意味している。設備投資の活発化は政府による投資促進策の効果が大きいとはいえ、投資拡大→生産性向上→従業員分配拡大といった企業成長の好循環が印刷業界にも遅れて生まれ始めた兆しの可能性がある。
脱デフレに伴う経営戦略の変化
生産性向上は従業員分配を拡大させたが、利益率まで同時に押し上げるには力不足という水準だった。しかし仮に従業員分配を据え置いていたなら利益率の改善基調は続いていたかもしれない。その意味で実質的に利益率の改善傾向は続いているとの解釈もできなくはなく、現時点でその判断は分かれる。我が国のマクロ経済環境は脱デフレに向かいつつあり、失われた20年で有効性の高かった安全性重視の縮小均衡経営だけでなく、成長性を重視した拡大再生産型の有効性が高まっていることは間違いない。
JAGAT 研究調査部 藤井建人
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