【マスター郡司のキーワード解説】ChatGPT(その壱)

掲載日:2023年6月29日

今月号では、前回約束したとおりChatGPTの話題を取り上げたい。「論より証拠」で実際に操作してみるのが一番だと思い、それに沿った構成を考えていたのだが、今月号の「デジ印奏論」が同じ内容を扱っているので、本欄では総論的な内容にしたいと思う。

ChatGPTに出遅れたBard

さて、ちょうどこの原稿を書いている矢先に、グーグルの対話型AI「Bard」が日本語と韓国語でのサービスを開始した。そこで、何回かに分けてChatGPTの解説を行い、その締めくくりにChatGPTとBardとの比較でもしてみたい。Bardの基となっているAI技術のLaMDAは、偏差値の高いグーグル(私の偏見だが、一般的なアメリカ人も皆そう思っているだろう)が開発したので、ハイレベルには違いない。しかし、現時点では、ChatGPTの後塵を拝しているのが実状だ。フル版のLaMDAを実装しているのではないため、今後に期待される(パラメーターが多いとプラットフォームの開発にもコストがかかり過ぎるのだ)。プライドの高いグーグル的には、地団駄を踏んでいるといった状況だろう。

グーグルの現在の商売は「検索」がメインで、すこぶるうまくいっている。同社はChatGPTよりも早く、この手のAI技術を世の中に発表できたのだが、絶好調のビジネスに自身でメスを入れるという行為をためらってしまったということなのだ。Bardのビジネス化をもっと急ごうと思えばできたのに、あのグーグルでさえ踏み出せなかったというのが正直なところだろう。検索エンジンとChatGPT(会話型AI)が合体すれば、「鬼に金棒」なのは誰にでも分かることである(広告収入で儲かっているグーグルにとっては「諸刃の剣」)。

成功したマイクロソフトのBing

それに対してマイクロソフトは、背に腹は代えられないと必死にさまざまな領域に投資している。ChatGPTを開発したOpenAIとも資本を含めたパートナー関係を結んでおり、劣勢に立つ「Bing」にChatGPTの技術を注ぎ込むことになったわけだ(これは、マイクロソフトにとって久々のヒットとなった。経営陣が意図したものかどうかは「?」だが、結果的には成功)。今までは「検索エンジンの使い方」を学校の授業で教えたりしていたのに、今後は普通の話し言葉でも操作が可能となる。プログラムなどの制作は当たり前、芸術作品の創作も可能になるということなのだ。ワタシテキには、「大学のレポートや作品評価をどうしようか?」と熟慮中である。

ChatGPTばかりが有名になり、お堅いNHKや有名新聞社は「固有名詞は?」と難色を示し、「会話型AI」「チャットAI」などの表現を用いてきたが、最近では「生成AI」に落ち着いてきたようだ(会話型AIの方が?)。開発元であるOpenAIでは、文章生成系の大規模言語モデルGPT-3を進化させたGPT-3.5を対話向けに改良しているが、最新のバージョンがマイクロソフトでも使用されている。

産業革命はブルーカラー層に大きな影響を与えたが、この生成AIはホワイトカラー層にも大きな影響を及ぼすと考えられている。マネージメント層が「さまざまな事例に応じて的確な判断を下しています」と言ったところで、しょせん経験則から確率的に導き出している解なのである。いくら判断力と言ったって、AIにできなくもない。要するに、生産性を高めるためにホワイトカラーまで機械化でき、省人化ができるのなら、経営者層やホワイトカラートップの人たちは大喜びというわけである。

会話型AIの系譜

会話型AIの始まりは、ELIZA(1966年?)だといわれている。PCが一般化する15年も前に、マサチューセッツ工科大学のワイゼンバウム教授によって開発され、コンピューターと人間との間で、人間同士が会話を行っているように見せかけようとした最初の試みであった。ELIZAは「パターンマッチング」の手法を使用した自然言語処理プログラムで、文字入力によって対話を行う。「こう聞かれたらこう返す」というパターンを用意し、応答を行うものだ。

その後は、PARRY(1972年~)をはじめ多数がELIZAに続いたが、当時はELIZAとPARRYのAI同士で会話をさせる試みも行われたのだそうだ(何となく記憶にある)。それらがiPhoneに搭載されたSiriにつながるわけである(アップル贔屓の私でさえ、Siriのアホさ加減には辟易していたが、最近は随分とマシになっている?ようだ)。これに追従した“OK Google”やアマゾンのAlexaが、スマートスピーカーとともに一般化したのである。だが、実際にはスマートフォンへの搭載が最も重要で、なんだかんだ言っても、“Hey Siri”のインパクトは大きかったと思う(Alexaの出来も大変良いが)。

(専務理事 郡司 秀明)