今後は、デジタル化によって広がった新しいメディア、新しいサービスに対応するために新たな事業領域を模索していく必要があるだろう。。『印刷白書2015』には、ビジネスヒントが詰まっている。
マスから個へのマーケティング発想
印刷会社がこれまで得意にしていた顧客のコミュニケーション支援では、印刷物という絶対無二のメディアがOne of them になった。顧客側から見れば、その分販促チャネルが増えたわけで、複合的(クロスメディア的)なアプローチが可能になってきている。
これらの状況にはスマートフォンやタブレットの普及が拍車をかけていることは言うまでもない。それは消費者が欲しい情報を簡単に手にすることができる消費者主導の時代になったことにほかならない。印刷会社のメディア戦略を考えた時に、デジタルメディアと紙メディアの相乗効果を図ることが必要不可欠になる。
これまでのマスによる広告手法もより効果的なターゲティングが前提になる。欲しい情報を欲しい時に消費者自らが簡単に入手できるからこそ、マーケティングの重要性が増している。印刷業界ではキーワードになるのは、一気通貫のサービスであるBPO であり、デジタル印刷を前提とした対応であり、それらを可能にするマーケティングオートメーションである。2015 年版の『印刷白書』では、そのことを念頭に置いて、通底するテーマとしての「未来を創る」を取り上げた。
2015年版の特徴と課題
2015 年度版も印刷産業の市場規模を推計できる統計資料を一覧表にまとめ、印刷産業以外の読者にも印刷産業の全体像を理解してもらえるような構成にした。
第1 部「特集・マーケティング発想によるデジタルメディアビジネス」では、デジタル化の総括と今後の新たな挑戦、事業展開、印刷会社が持つべき知識やスキルについても深掘りしており、マーケティングオートメーションの重要性にも触れている。またデジタル化を乗り切り、自社の強みに転換するために何をするべきか、新技術をいかにして現実のビジネスに結び付けるか、マーシャル・マクルーハンの「テトラッド」を使って考察している。
第2 部「印刷産業の動向」「技術トレンド」「関連産業の動向」の3 章で、印刷・同関連産業の現状と動向を捉えている。データ活用と印刷の親和性の観点から2015 年版では初めてDM 業界の動向についても紹介した。マーケティングオートメーションとDM の関係なども印刷業界にとっては身近な話題だと思う。
第3 部では「印刷産業の経営課題」とし、喫緊の課題を取り上げている。印刷産業を取り巻く環境や産業構造が大きく変化している中で、どのようにビジネスを展開していくべきか。地域活性化ビジネス、印刷通販など印刷業界の新たな課題についても言及している。
また、一見すると自社には関係がないように思えるデジタルが引き起こすメディアビジネスの動向も、その潮流は押さえておいたほうがよい。アドテクノロジーやビッグデータを取り上げているのは、そのような意図があるからだ。
特集ページから最後まで一気に通して読むとイノベーション思考の編集意図が理解いただけると思う。全体構成として最終的に人材の問題に行き着くことを示している。企業の成長のためには、人材の成長は不可欠である。そのことをあらためて認識できるように配慮した。『印刷白書2015』が新たな事業戦略の一助になれば幸いである。
(『JAGAT info』2015年11月号より一部抜粋)