最新調査結果から考察する印刷経営と戦略(後編)

掲載日:2015年12月16日

近刊 『印刷産業経営動向調査2015』 には「○年ぶり」に好転という表現が目立つ。印刷経営を巡る状況は悪化や低下を示す指標ばかりではなくなってきた。まさに転換点にある。従来の経営スタンスでは増収減益の経営構造に陥りやすい。どのような変化が起きていて、どのような対応をすべきか、考えたい。

戦略と業績の相関、どの戦略を選択すれば業績が高まるか

本調査では60を超える戦略に関する調査と業績調査を結びつけ、戦略と業績の相関を捉えている。業績の良好な印刷会社はどのような戦略を採る傾向にあるのか。業績の安定して高い印刷経営者の思考形式とはどのようなもので、逆に業績の悪い印刷経営者の思考形式はどのようなものか。現行方式で既に9回を数える調査となったため、信頼性の高い相関を捉えることが可能になってきた。通算9回の毎回にほぼ共通する結果が出る項目については、その業績と戦略の間になんらか確度の高い相関があるとみていいだろう。たとえば営業で技術訴求重視の印刷会社の業績は安定して高い傾向にある、問題の原因を属人的部分に求める印刷会社の業績は低くなる傾向にある、など。

戦略と業績の相関、「脱印刷」視点の高まり

例えば事業領域について、本調査では4つの選択肢(①総合化 ②専門化 ③脱印刷 ④多角化)から「現在何を最重視しているか」を探っている。回答の長期的な傾向を見ると、「専門化」が減り「脱印刷」が増える傾向にある。7年前まで40%台だった「専門化」が35%前後に低下する一方、「脱印刷」が今回6%とはいえ過去最高を記録した。また、「将来的に何を最重視したいか」では、「脱印刷」が過去最高の29%となり、長期に低下しつつある「総合化(41%)」に 次ぐ多さまで高まった。そして、「脱印刷」志向の印刷会社の業績が平均を上回っているなど、この設問からは事業領域の選択と業績の相関の変化がわかる。

業績良好印刷会社のかたちを知る

こうして本調査の結果を見ていくと、戦略と業績の相関がわかってくる。たとえば利益率上位1/4の印刷会社とそれ以外の印刷会社の利益率には13倍の差がある。何がこの業績格差を生んでいるのか。数字だけを見れば生産性と加工高比率の違いが利益率の違いに直結しているのだが、これらは人的資源の配分・事業領域の選択・生産と営業など戦略の違い、そもそもは経営者の思考特性などに起因する違いである。会社の経営計画を考える時、結果としての業績面だけに囚われることなく、戦略面や思考面の違いを知って、それらの業績面へのインパクトを考えながら戦略的な計画立案に臨むようにしたい。

(最新調査結果から考察する印刷経営と戦略 前編はこちら)

JAGAT 研究調査部 藤井建人

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