「ヒト、物、金」は一般的には組織を運営する上での経営の3要素としてよく知られている。さらに情報化社会と呼ばれる近年では、それらに加えて情報や技術も欠かせない要素だと指摘されるが、そうだとしても人の役割が低下することは考えられない。むしろ、技術や情報の重要性が高くなればなるほど、それを判断、運用する人の役割は高まる。
印刷ビジネスを取り巻く環境は、技術も市場も大きく変化を続けており、さらにエンドユーザーの意識が変わり、それにつれて印刷会社の顧客のニーズも多様化している。したがって、印刷ビジネスはそこに対応できないと狭い世界の中で限られたパイを奪い合うという状況に陥ることになりかねない。
新たな成長を求めるには、それらの変化に対応したビジネスが必要になり、それを実現していくのにレベルの高い人材が不可欠になる。 印刷会社は従来の印刷メディアだけを中心とした世界から、デジタルメディア対応を含めた新しい時代の印刷ビジネスの人材を確保、育成していくことが会社の成長につながる。
JAGAT印刷産業経営動向調査2015によると、正社員に投下される年間の教育研修費は、調査対象会社の業績上位25%は4万963円と平均的な企業の1.4倍となっている。教育研修に費用を掛ければ必ずしも業績が上がるわけではないだろうが、少なくても教育に投資すれば、何かしらの人材のレベルアップがなされ、それが事業に好影響をもたらさないはずはないだろう。
JAGAT info12月号では、直面するビジネスの課題に対して、一つに人材面から対応していこうと、社員教育に力を入れる印刷会社の人材に対する考えと教育の取り組みを紹介している。ある会社は資格取得者に対してインセンティブを用意して、社員の勉強に対するモチベーションを維持、アップさせるための一つの方法として資格取得を活用している。印刷技能士やDTPエキスパート、クロスメディアエキスパートなど印刷関連資格はもちろんだが、印刷業務には直接関係がない資格でも取得を奨励している会社もある。それは、資格取得することは目標になるが資格取得を目的化するのではなく、取得するために勉強に取り組む意欲を社員にもってもらうことのほうが人材の成長につながるからだ。
人を馬に例えるのは申し訳ないが、「馬を水飲み場に連れていくことはできても、水を飲ませることはできない。」ということわざがあるように、無理やり資格を取らせようとしても、自発的に資格を取ろうと思わない限り勉強は始めないし、知識は身に着かないのではないかということだ。だから、今回本誌で紹介している会社も、原則的に資格取得は本人が自ら希望した人に限られる。
これらの会社にとっては人材育成のキーワードは自主性であり、何ごとにも自らチャレンジしようという意欲を持ってもらうこと、この意欲こそが人材のレベルアップにつながる大きな要素なのだろう。
また、連載の「EDUCATION」のコーナーは特別編として、JAGATが開催したブランディングに関する研修に取り組み、組織活性化を果たすとともに着実に成果を上げつつある十一房印刷工業株式会社の社員の方々に取り組みの状況や研修に参加しての気づきや感想を紹介してもらった。人材育成に取り組み企業や教育担当者の方々にはぜひ一読していただきたい。
(JAGAT info編集担当 小野寺仁志)
2015年12月号目次はこちら