図版の処理と校正での確認

掲載日:2016年3月31日

日本語組版とつきあう その53

小林 敏(こばやし とし)

書籍における図版配置の指定方法

書籍における図版配置の指定としては、大きく2つの方法に分けることができる。

(1)あらかじめ本文テキストについて棒組などを作成しておき、ページごとにレイアウトを行い、図版を配置する具体的なページと、そのページ内での詳細な配置位置を指定する方法。

(2)図版と本文との対応を指示し、ページ内での図版配置位置は原則のみを指定する方法。

一般的には、図版が多く入る場合は(1)の方法、それほど入らない場合は(2)の方法で指定を行う。(2)の方法では、図版を配置する具体的なページは、組版の結果として決まるので、奇数ページになるか、偶数ページになるかも結果として決まるケースが多い。
縦組で(2)の方法を採用した場合、普通は、図1に示したように“天・小口寄り”に図版を配置する。奇数ページに図版を配置する場合は、ページの左側になり、偶数ページではページの右側になる。
横組では、図版を版面の左右中央に配置し、図版の左右には文字を配置しない方法が多くなっている。図版を左右中央に配置し、(2)の方式で指定する場合、普通は、図2の右ページに示したように段落の間に図版を配置するか、左ページに示したように版面の地(または天)ということになる。

zu53_1

(図1)

zu53_2

 

(図2)

コンピュータ組版の図版配置

コンピュータ組版における図版の配置方法としては、インライングラフィックのほかに、浮動ブロック(フローブロック、フローティングブロックともいう)と固定ブロックとよばれる方法が行われている。これらは、JIS Z 8125: 2004(印刷用語―デジタル印刷)では、次のように定義している。

インライングラフィック:本文の一部として文字と文字との間に挿入された画像。
(参考:本文の追加や削除にともなって、本文と同じように移動する。)

固定ブロック:特定の場所に、図版、表組などを入れるために指定された大きさで確保した領域。

浮動ブロック:文章の移動に伴って自動的に移動する図版、表組などを入れるために確保した領域。
基本的な考え方は以上であるが、組版ソフトの処理能力にもよるので、指定の方法に応じて処理方法を選んでいる。

原則を指示して配置する方法の問題点

原則を指示して配置する場合、配置するために必要な条件としては、次のような事項がある。

(1)本文の説明と図版配置位置との関係は、同一ページのできるだけ近い位置が望ましい。スペースの関係で本文の説明と図版配置のページが異なる場合もありえるが、本文の説明より図版が前になることは、あまり望ましくない。

(2)書籍では見開きを基準に設計し、“天・小口寄り”などといった指定を行うので、見開きでの指定ができなければならない。

(3)縦組では、“天・小口寄り”の版面一杯に配置する例が多いので、版面(または仕上がり紙面)からの指定した位置に図版を配置できなければならない。なお、版面一杯に配置する場合でも、図版の内容によっては、版面から1mm程度内側にした方が体裁がよいケースもある。

(4)通常は、(3)で述べたように版面からの指定位置でよいが、断ち切りにする場合などでは、仕上がり紙面の角を原点として位置指定ができれば便利である。

(5)横組の図2の場合は、説明のある段落の直後、つまり、段落と段落の間に配置することが基本である(段落の途中で、段落を区切るように配置しない)。この位置にスペースの関係で配置できない場合は、版面の地または次ページの天に配置することになる。

(6)横組でもページの右側(奇数・偶数ページとも)、または小口側に配置する場合もある。この場合でも、縦組のように天側に配置するのではなく、本文と連動して配置位置を決めることが多い。つまり、説明のある段落の横となるページの中ほどか、天か、地かに配置する。

(7)図版を配置した周囲に文字を配置する場合は、通常、最低のアキを指定する。最低のアキは、一般に本文に使用する文字サイズである。なお、このアキはできれば統一した方がよい(私が指定する場合は、本文に使用する文字サイズの1.5倍を基準にしている)。
図版サイズは、設計段階では多少の調整が可能である。そこで、字数または行数について、キャプションの行数なども考慮し、それぞれの場合における図版サイズの一覧を作成しておき、その一覧の中から当てはまる数値を図版の設計段階で採用すれば、図版周囲のアキを統一できる。
また、配置する際の行長は、使用する文字サイズの整数倍にする必要がある。

(8)字詰め方向の図版の周囲に配置する文字が極端に少ない場合は、文字は配置しないで、空けておいた方がよい。また、行送り方向の図版の前後では、本文1行だけ配置しない。

校正での確認

前項で述べた問題点は、校正で確認しないといけない事項となる。
浮動ブロック機能を利用し、自動処理で行われるのか、あるいは固定ブロックの機能を利用し、個別の箇所での対応によるか、によっても問題の在り方はいくらか異なる。しかし、校正作業では、どのように処理したかは不明の場合が多いので、すべての確認は欠かせない。例えば、図版の配置位置は、本文と対応しているか、しっかり確認する必要がある。

また、初校、再校で修正が入り、行やページの増減があった場合も、図版の配置位置に影響が出るので、同様な確認が必要になる。
特に、前述したように図版に対し、字詰め方向の文字を配置する場合の行長は、使用する文字サイズの整数倍にする必要がある。そうでないと、市販されている本でも見掛けるが、関係したすべての行で、不必要な行の調整処理が発生する。

その他の校正での注意

図版の内容は多様なので、それに応じて多様な点検が必要になる。
また、図版は本文とは別進行になる場合も多く、特に本文・キャプション・図版中で使用している用語の不整合が起こりやすいので注意が必要である。
組版処理したPDFファイルが入手できれば、図版の作成方法にもよるが、図版中の文字をアウトライン化していない場合、図版中の文字も検索できることもあり、校正点検の補助手段として考えてもよいだろう。

日本語組版とつきあう (小林敏 特別連載)