-ブランディング×デザイン力で印刷会社のソリューション力を高める【第5回】
ブランド・アイデンティティを策定するために重要なのが自社の立ち位置を明確にし、顧客の心の中に自社のポジションを築くことである
前回は、印刷会社のブランディング活動の軸となる『ブランド・アイデンティティ』を紹介した。ブランド・アイデンティティには企業として顧客に提供する価値と、競合他社と違う点が明確に表されていなければならない。
ブランディングに必要なブランド・アイデンティティを策定するために、対象の顧客ニーズを探るためのターゲティングも紹介した。そのニーズに対して、競合他社と比べて企業としてどのように独自性や優位性のある立ち位置で、どのような価値を提供するのかというポジショニングという過程も重要になってくる。企業が顧客の心の中でどのような位置を占めたいのかを決めることで、顧客に「このようにとらえてほしい」というブランド・アイデンティティを明確にし、顧客に対して発信することができる。
このポジショニングは、ポジショニングマップというものを利用して視覚化することで、社内の共通認識として理解しやすくなる。ポジショニングマップは以下のように作成していく。
ターゲットである顧客が求めているであろうニーズ等から縦横の軸に条件を設定する。それぞれの軸には、条件の高い(大きい)もの等に対して、低いものやそれと反対・対立するもの等を条件とするのが一般的である。
それらの軸の条件において、自社がどこの場所に位置するか、競合がどこの場所に位置するかで独自性や優位性があるのかを判断することになる。このポジショニングを「このようにとらえてほしい」というブランド・アイデンティティとして発信し、徐々に顧客の心の中で自社の位置を占めていくのである。そうすることで、このポジショニングマップにおける自社の位置にあるニーズが、顧客に発生すれば、真っ先に自社を思い出してくれることになる。
ポジショニングマップは顧客の心の中の状態を想定しているとも考えられ、自社が競合と重なりあっている場所に位置していれば、顧客には独自性や優位性として判断されることはなくなってしまう。その場合は、自社の独自性や優位性は埋もれてしまい、相見積もりによる「価格の安さ」等で選ばれることなってしまうことが多いので注意が必要である。
ポジショニングは顧客の心の中で、競合と差別化できるものでなければ意味がないので、ポジショニングマップはひとつできればよいわけではない。ポジショニングは、提供製品・サービスの機能的なところから、顧客の情緒・感覚的なところまで幅広く考えなくてはいけない。条件の軸を変えていくつもポジショニングマップを作成し、最も自社が優位になれるところを見つけていく。
例えば、印刷会社としてのブランディングを取り入れる場合、ポジショニングはこのような考え方ができる。
このようなポジショニングで独自性や優位性があれば、ブランド・アイデンティティに落とし込むことになる。ブログなどのSNSで情報発信をしている印刷会社として『印刷だけでなくそれらの活用も相談できる地域の印刷会社』というようなブランド・アイデンティティを策定できる。
ポジショニングマップの条件は、自社の特徴だけでなく、ターゲットの顧客ニーズなども深く掘り下げる必要がある。また競合状態や業界・社会状況なども考えていかなければならない。例として上に提示したポジショニングマップやブランド・アイデンティティは、あくまでも参考例のひとつにすぎないと考えてほしい。
こうして、顧客の様々なニーズに合わせて、それぞれポジショニングの位置を設定し、自社が独自性や優位性が取れるいくつかのポジショニングを採用することになるのである。ブランド・アイデンティティを策定するためには様々な方法があるが、これが一般的なもののひとつである。
ポジショニングマップは、実際のブランディングの活動において「どのようにブランド・アイデンティティを販促やデザイン表現や計画に落とし込んでいくか」にも活用することができる。この辺りは、ブランディングを取り入れたい企業の多くが迷うところでもあり、後々詳しく紹介する予定である。また、競合他社と同じ位置になってしまうポジショニングも、実際のブランディング活動の際に、社内的に「このポジショニングは大きく発信しない」という共通認識ができあがるので、後々も残しておくことが重要である。
次回からは、ブランド・アイデンティティをどのように企業の活動やデザイン表現に落とし込むかを順に見ていく。
小澤 歩(おざわあゆむ)
有限会社グレイズ代表取締役 http://ozawaayumu.com/
(財)ブランド・マネージャー認定協会マスタートレーナー http://www.brand-mgr.org/
目次 | ||
第1回 | 印刷会社に求められる顧客ビジネス支援のブランディング [2015/10/23] | |
第2回 | 印刷会社がクライアントに提供すべきもの [2015/11/27] |
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第3回 | 印刷会社が取り組むべきブランド戦略構築の流れ [2015/12/01] |
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第4回 | 活動の軸になるブランド・アイデンティティとは [2016/01/05] |
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第5回 | 顧客の心の中で自社を占めるポジショニング [2016/02/05] |
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第6回 | 印刷会社ができるクライアントのブランド価値の表現 [2016/03/08] |
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第7回 | ブランドの価値は世界観とトーン&マナーでつくる [2016/03/11] |
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第8回 | デザインを統一するトーン&マナーのつくり方 [2016/04/8] |
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第9回 | ブランド・イメージをユーザーに届けるためのデザイン表現方法とは? [2016/05/12] |
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第10回 | ユーザーの購買意欲を喚起する写真、イラストの選定方法 [2016/07/15] |
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第11回 | ユーザーの購買行動を促す広告・販促物に必要な視点とは [2016/08/19] |
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