page2016のカンファレンスでメディアに関するセッションの中からモデレータ・スピーカーの発言で印象に残ったものを幾つか取り上げたい。
スマホ時代はコンテンツの再編集が必要
モノが売れない時代にどうやったら売れていくのか。賢くなった消費者のニーズに対して、これまでとは違う「なぜ選ばれるのか」の視点で考えていくべきだろう。生活者とメディアの関係はどう変化していくのだろうか。
【B1】メディアと生活者の関係により変化するビジネスモデル
[グライダーアソシエイツ・荒川徹氏]
あるレシピサイトで先行して出したお鍋のニュースを、気温が下がったときのタイミングで、antenna*で再掲したら反響が大きかった。つまり情報の出し方によって違うムーブメントが起きることがわかった。
生活者は常に変化し続けていて規則性がない。コンテンツを作成するメディアとデータに基づいた情報の最適化を図る事業者がアライアンスを組むと違う価値が生まれるのではないか。
[法政大学・藤代裕之氏]
スマホ時代の生活者は、多様化していて趣味趣向が一括りでは捉えにくい。アルゴリズムは大事だが、従来型のターゲティングではリーチできない。コンテンツを再度課金するためには、リパッケージして展開を考えていくべきである。
編集サイドがコンテンツのストックを意識して、データと見比べながら必要な場面で必要な情報に再編する必要が出てくる。その「再編集」が大きなテーマで、既存のメディア(マスメディア)が思っている「編集」とは全然違うものである。
媒体側の論理だけではいけないが、生活者側につきすぎてもよくない。どういうコンテンツの価値を高めるか、どういう価値を創出していきたいのか、という編集方針があり、その上で生活者と一緒に考えて作り出していく、それが新しいメディアのあり方であろう。
ネガティブに打ち勝つには
例えば、新規事業部を立ち上げると必ず否定的な意見を言う人がいる。抵抗勢力といってもいいのかもしれないが、自分の地位を守るためとも思える。経営者がGOサインを出しても担当者との間に入る管理職から「いつになったら結論が出るのか」とか「費用対効果を出せ」と言われるのはよく聞く話だ。しかし、チャレンジする精神がなければ何も始まらないのは誰が見てもわかることだろう。
【CM4】マスメディアの新たな挑戦
[radiko・青木貴博氏]
新しいことをしようとすると必ずネガティブな意見を列挙する人が出てくる。
「そんなことして何になるんだ、やっても無駄だ」
「それがいくらになるんだ」
「うまくいく保証があるのか」
などわかりやすい無責任な反対意見を述べてくる。
それに対して、「今までやったことがないのに結果なんかわかるわけがない。やってみないことには誰もわからない」というのが正直なところだ。ネガティブな発言を繰り返す人にどのように対処すればよいのか。それは「自分の本気度を相手に伝える」ことである。
radikoの場合でいうと本気でラジオを変えたい。ラジオによって世の中を変えていきたいという強い気持ちを相手にぶつける。こちらの本気度合いが相手に伝わるとそれまでネガティブなことを言っていた人も共感してくれたり、協力してくれたりする。しかし、それでもネガティブな人はその世界から退場していくのである。
これからの編集者の仕事内容
アメリカの印刷業界には「1ドルの印刷の周りに6ドルの仕事、つまり印刷付帯サービスがある」という言い方があった。これは印刷ビジネスのワンストップサービスを表す言葉として、一時期よく言われていた。
最近のBPOにもつながる話だが、顧客側から見ると、印刷に絡めて周辺の仕事もまとめて発注することで全体の費用対効果が上がる。印刷会社からすれば、顧客を囲い込むことにもつながる。それに近いことは他の業界、他の業種にも当てはまる。
【B3】進化するメディアと コンテンツの新たな届け方
[インフォバーン・小林弘人氏]
これからの編集者は、コンテンツを作っておしまいであってはいけない。それをどのようにして売っていくのか、つまり情報をどうやって届けたい相手に最適に届けることができるのかを編集者は考えていかなくてはいけない。
出版ビジネスの周りには換金化モデルがたくさんある。例えば、一つのマンガ作品に対して、コンテンツを核にして「旅行」や「講習」を始めとするビジネスが7つも8つも考えられる。ところが出版社の人間は「それは出版社の仕事ではない」と言う。
これまでの編集の概念を変えていかないとデジタルの時代に対応できなくなる。小林氏は、『印刷白書2014』の中で次のように述べている。
「まずはこれまでの枠をはみ出して考えてみること。これはわたしのビジネスではない、ここからあそこまでがビジネスの範囲だと決めていたことが右肩上がりの頃には美徳だったかもしれない。しかし、そうした価値観を転換しない限り、これからの時代を生き延びる方法はないだろう。」
(JAGAT 研究調査部 上野寿)
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本書のテキスト部分の執筆者でもあるB1セッションのモデレータを務めた藤代裕之氏が登壇します。