漢文を構成する要素

掲載日:2016年6月2日

日本語組版とつきあう その55

小林 敏(こばやし とし)

漢文とは

漢文とは、漢字だけで構成されている中国の古典文(またはそれに倣った文体の文)について、日本語の文として読むことが可能になるように、読むための様々な補助記号をつけた文である。図1に例を示す。

図1は“天(てん)に口(くち)無(な)し、人をして言(い)はしむ”のように読む。
なお、中国の古典文(またはそれに倣った文体の文)を日本語としての語順で読むことを“訓読(くんどく)”という。

また、漢文の組版処理については、JIS X 4051(日本語文書の組版方法)でも規定しており、“5 漢文処理”で説明されている。

zu55_1 (図1)

漢文の主な利用例

漢文を利用する主な例としては、中国の古典文そのものの紹介または鑑賞するためのものと、歴史書などで説明のために引用して利用するものとがある。また、高校でも必修ではないが、教育が行われている。

したがって、日本語の書籍での使用例は多いとはいえないが、出版物のジャンルによっては欠かすことができない要素である。

漢文につける補助記号

中国の古典文(またはそれに倣った文体の文)を日本語の文として読む(訓読する)ことが可能になるようにつける補助記号を訓点(くんてん)という。主な訓点には、次のようなものがある。

(1)句点、読点および中点
(2)始め括弧および終わり括弧
(3)返り点
(4)送り仮名
(5)読み仮名
(6)たて点

慣習として、送り仮名には“カタカナ”を、読み仮名には“ひらがな”を使用している。

これ以外の漢文の補助記号としては、圏点、傍線や和字間隔なども使用されている。なお、圏点、傍線や和字間隔の組版処理は、一般の日本語の組版処理と同じである。

また、古典の復刻などでは、段落を示すための段落符号が用いられる場合もある。

漢文を訓読するための方法や記号は、歴史的には様々な方法が行われてきた。これらの方法の整理統一が問題となり、文部省は調査のための委員会を組織し、検討した。その結果は、1912(明治45)年に“漢文教授ニ関スル調査報告”としてまとめられている(報告は官報8630号に掲載されている)。これ以降は、“漢文教授ニ関スル調査報告”で示されている訓読の方法で一般に行われている。

実際にどのような訓点を施すかは、読者対象によって異なる。最も省略した方法は、句読点のみを施すというものである。次に簡略化したものとしては、句読点に追加して返り点のみを施すという方法がある。一般には、句読点、返り点および送り仮名を施した例が多く、さらに難しい漢字に限り読み仮名をつけた例もある。

いくつかの訓点を施した例を図2に示す。左から、“地の利は人の和に如(し)かず”、“又曰(い)はく、「梁(りよう)は身の重きに孰(い)与(づ)れぞ」と”、“楚(そ)人(ひと)に楯(たて)と矛(ほこ)とを鬻(ひさ)ぐ者あり”のように読む。

zu55_22

(図2)

返り点

返り点は、訓読する際において、日本語としての語順で、下の字から上の字に返って読む(返読(へんどく)する)ための順序を示すもので、次のような例がある。

(1)レ点 “レ”
レ点は、下の1字からすぐ上の1字に返読する場合に用いる。
(2)一二点 “一、二、三、四、五”など
一二点は、2字以上隔てて返読する場合に用いる。
(3)上下点 “上、中”および“下”
上下点は、レ点と一二点だけでは返読を示すことができない場合に用いる。
(4)甲乙点 “甲、乙、丙、丁、戊”など
甲乙点は、レ点、一二点および上下点で返読を示すことができない場合に用いる。
(5)天地点 “天、地”および“人”
天地点は、レ点、一二点、上下点および甲乙点で返読を示すことができない場合に用いる。

なお、レ点と一二点の“一”、上下点の“上”などを同じ位置に配置する場合がある。この場合は、二つの返り点を組み合わせて用いる。図2には、レ点と一二点の“一”を組み合わせた例がある。

日本語組版とつきあう (小林敏 特別連載)