シーンリニアワークフローは、動画のカラーマネージメント方法である。印刷、テキスタイル、スマホ、タブレット、動画(シネマ、TV)、デジタルサイネージ等の色を総合的にハンドリングできるのは印刷業界を置いては他にない。印刷業界が積極的にサポートすべきポイントである。
動画のカラーマネージメントであるシーンリニアワークフローとは、ACES(エイセスと発音)と言われるカラースペースを共通スペースに使い、これまで難関だったガンマの問題をリニア(=1.0)に持って行ってしまい(印刷人にとっては無茶な気もするが?)、色合わせを行うというのがリニアワークフローである。
シーンリニアワークフローは色を合わせるというより、ガンマの違う複数の動画を合成したりするのに適しているということが出来る。最近の映画はCG動画との合成が基本になっているので、CG合成には向いている力業といえる。印刷でいうICCプロファイルに当たるのがLUT(ルックアップテーブル)であり、これを各変換に利用するという場当たり的なイメージもあるが、長年培ってきたハリウッドのノウハウということも出来るのだ。
動画を含めた新しいカラーマネージメントについて、JAGATでは2016年度は特に注目していきたい。カラーマネージメントも一段落したと思われていたが、技術の進化で液晶品質が格段にアップしてしまい、またまたカラマネの出番が来たということである。
カラーマネージメントに関してはAppleに一日の長があるので、Macの最新OSであるEl Capitan(OSX v10.11)を例に説明する。El Capitanで新たに追加になっているICC Profileは
1.ACESCG Linear.icc
撮影画像・CG・デジタル合成における統一色空間の中核カラースペースである。
2.DCI(P3)RGB
米国のデジタルシネマ規格(DCI-P3)に対する国際標準のカラースペースである。映画撮影フィルムに基づいて作られている。
3.Display P3.icc
Retina P3ディスプレイ対応(DCI-P3をカバー。俗にいうシネマディスプレイ)のカラースペースである。
4.ITU-709.icc
HDTV(High-definition television)に対応した国際標準カラースペースである。sRGB相当と思えば良い。
5.ITU-2020.icc
UHDTV(超高精細Ultra High Definition TV)に対応した国際標準のカラースペースである。Adobe RGBより広い。
6.ROMM RGB.icc
ISOが22028-2:2013で定めた国際標準のカラースペースである。ProPhoto RGB空間と同等だが、ICCプロファイルのバージョンが4.0にアップされている。
このように動画に関する色合わせの外堀が埋められつつあるという感じなのだが、いよいよsRGBの壁も破られつつあり、Adobe RGBの赤付近の狭さは、つくづく悔やまれる。もう少し広ければ、医療用にもまだまだ使えたのになぁと思う次第である。
既存のAdobe RGBやsRGBを含めて表1として掲載しておくが、白色やカラースペースの大きさがわかると思う。数値は言わずもがなLab値であり、大きさは想像つくはずである。
表1 様々な白色やガンマ値
図2にROMM RGBのカラースペースを載せているが、RAW現像ソフトとして使われているAdobe LightroomはデフォルトのワーキングカラースペースがProPhoto RGB(ROMM RGB相当)であり、Adobe RGBがデフォルトワーキングカラースペースとは区別して扱わないと、白色点が異なるので「色が異なる」というトラブルになってしまう。まだLightroomではICCのバージョンが2.0のProPhoto RGBだが、その内に4.0のROMM RGBに変わるかもしれない。
図2 ROMM RGB
この先、動画系はリニアワークフローが中心になっていきそうだが、紙との整合性を考えた場合、トラブルが起こる場合も少なくない。RGB画像の中で、今一番気になるのがRGBで墨指定した場合で、それをCMYK分版したらCMYに分版されてしまうことだ。印刷は見当性が悪いので、画像になら仕方ないが、IllustratorネイティブやPDFなら墨ベタ指定し直す等の配慮はしたいものである。やっぱり白文字が虹色になっては印刷人としてはいたたまれない。
また、多くの人は「Web画像はsRGBに変換してICCプロファイルを外す」と一つ覚えで信じているかもしれないが、現在のブラウザは、Safariは当たり前としてもChromeやFirefoxはカラマネOKだし、IEだってIE11ならOKなのだ。ICCプロファイルが外されてしまうと、Photoshop内での色とWebでの色が異なってしまうことも、しばしば見られる光景である。まずは「ブラウザのほとんどはカラマネ対応されている」ということを肝に銘じていただきたい。
(JAGAT専務理事 郡司秀明)