スマホの画面で情報を得ることが日常生活の一部となっている中、お客様(印刷発注者)の情報発信の仕方や予算配分も大きく変わりつつある。こうした環境変化に印刷業界はどのように対応すべきだろうか。
『印刷+Web』で売り上げを10%伸ばす
page2016セミナー「これならできる!儲かる!デジタルコンテンツ活用を体感する」で講師を務めたベンティクアトロの石井千春氏は、「今の時代に印刷の請負製造だけでビジネスをするのは、援軍が来る当てもなく籠城戦をするようなものだ」という。
コストを切り詰めて耐え忍んでいても、右肩上がりだった頃の状況に戻ることはない。もちろん例外もあり請負製造に特化するという戦略もあるが、熾烈な価格競争を勝ち抜く覚悟と裏付けが必要となる。この選択肢を選べる企業の数は限られる。
では、城から打って出てどのように戦えばよいのだろうか?
そこにフォーカスしたのが、page2016セミナー「既存顧客からの売上を10%伸ばす『印刷+Web』の仕掛け方」である。セミナーのタイトルがそのまま戦略となっている。
仕掛けるところは既存の市場で対象は既存のお客様。長年培った関係性や印刷物の制作過程で得られたお客様の情報(製品/サービス/競合など)を強みとする。『印刷+Web』で売り上げを10%伸ばす、には二つの意味がある。
一つは、印刷物だけでは売り上げの上積みが見込めないため、Web(デジタル)と込みで売り上げ増を目指す。印刷物だけであればお客様の予算が限られるが、Web(デジタル)まで含めると伸び代がある。
もう一つは、手の届きそうな目標を設定する。BLY PROJECTの布施氏は「初めに“できない”と感じた目標は“やらない”」という。中間管理職や現場層がムリだと思うような目標を上から与えても達成されることはない、ということだ。
受注金額の大きさを追いかけた失敗例として、大規模なWebサイト構築の案件を受注できたものの、イベントでアクセスが集中しサイトがダウンしてしまった。制作はハード、ソフトとも外注に依存し、かつ複数の業者で分担していたため、緊急事態に連携がとれず、復旧に半日以上かかってしまった。お客様の担当者の責任が問われ人事異動になるほどの大問題となってしまったという事例を紹介し、“炎上リスク”は避けなければいけないと述べた。
また、新規事業の大きな障害の一つは「人の心」であり、モチベーションを上げる「正しい論功行賞」が不可欠である。そしてスタートアップの人材選定の重要性など示唆に富んだ話しがあった。
Adobe Museの活用
具体的な武器として石井氏がセミナーで紹介したのがAdobe Museを利用したデジタルコンテンツの作成とその活用法である。
Adobe Museは、Webコンテンツ作成ツールでAdobeのDTPツールと親和性が高く、DTP制作スキルがあればノーコーディングでWebサイトが構築できるのが大きな特徴である。Adobe Creative Cloudの契約をしていれば、追加投資することなく利用できる点も魅力である。
セミナーでは、「どこでも手に入るモノで、どこにもできないモノを作る」をコンセプトにチラシの素材を利用した販促コンテンツ、あるいは店内のデジタルサイネージやキオスク端末向けコンテンツの例を紹介した。
一般的なWebサイトの構築では競合環境は厳しい。お客様との関係性やお客様のコンテンツをお預かりしているという印刷会社の強みを生かすことを考えると、販促物やデジタルサイネージのコンテンツ作成が向いている。
また、お客様からの引き合いがあってから対応するのではなく、こちらから先に提案することが非常に重要である。そして実物に近いサンプルを作成して提案する。完成度の高いサンプルを比較的容易に作成できる点もデジタルコンテンツの優位な点である。
かつてDTPの仕事は最先端のMacを使ってクリエイティブなことができる憧れの仕事だった。ところが今は、「指示されたことをその通りに再現する」という文字通りのオペレーターとなっている。さらに納期に追われ、効率に追われ前向きさが失われている。元気のないDTPオペレーターにクリエイティブな仕事をする喜びを取り戻したいというのが石井氏のもう一つの想いだ。
そして、「どこにもできないモノを作る」ためには人材、情報デザインのエキスパートが必要となる。求められるのは、メディアを通して発信する情報の効果を最大化するための施策を考えること。そして、ブランドイメージを統一化し、向上させるための情報戦略を内包したさまざまなデザインフォーマットを開発しマニュアル化することである。マニュアル化することにより誰でも再現でき大量のコンテンツ作成や迅速な更新を低コストで行うことが可能となる。
言葉にすると非常に抽象的で分かりづらくて恐縮なのだが、中小の印刷業にとっても新たなフロンティアとなり得る領域だと考えており、改めて紹介する機会を設けたい。
(CS部 花房 賢)