2015年のスーパー・コンビニの売上高はプラス成長。百貨店は4年ぶりの前年割れながら、訪日外国人増加の恩恵で主要10都市の店舗は好調を維持。印刷会社の需要にはどう影響するのでしょうか。(数字で読み解く印刷産業2016その8)
「印刷統計で何がわかるの?」では、商業印刷は印刷物全体に占める割合が最も大きく、商業印刷の好不調が印刷業全体の好不調につながることを「印刷統計」から見ました。商業印刷の代表的なものは、ポスター、チラシ、カタログなどの宣伝用印刷物で、クライアントの広告宣伝費に左右されることから、クライアント産業の業績が気になりま す。そこで、今回は百貨店やスーパー、コンビニなどの大型小売業の年間売上高を見てみましょう。
スーパー売上高19年ぶりに増加
2015年の小売業界売上高に関して「スーパーは19年ぶり、コンビニエンスストアは4年ぶりに前年比でプラスに転じた」とニュースで報じられましたが、この数字は既存店ベースによるもので、過去1年間に開・廃業した店舗の販売額は除かれています。
これに対して、調査時点で営業中の店舗の販売額を単純に合計した全店ベースで見ると、スーパーは3年連続のプラスで、コンビニは2000年代に入って成長が鈍化した時期もありましたが、2010年代に入るとプラス幅は拡大しています。
既存店ベースの売上高そのものは公表されていない統計もありますが、前年からの変化を見る場合、既存店ベースを店舗調整済として使用することが多くなっています。印刷需要に関して言えば、新規出店の告知チラシなどが考えられることから、全店ベースの店舗調整前で比較したほうがいいかもしれません。
日本チェーンストア協会によると、主要スーパー58社、9384店における2015年の全店売上高は13兆1683億円(前年比:店舗調整前1.1%増、調整済0.7%増)となりました。食料品が好調で、実質賃金の増加に加え、ガソリン安などが消費を後押ししたようです。
日本フランチャイズチェーン協会によると、主要コンビニ9社、5万3544店における2015年の全店売上高は10兆1927億円(同:店舗調整前4.7%増、調整済0.9%増)となり、初めて10兆円を超えました。店舗数は1510店の大幅な増加で、淹れたてコーヒーや弁当・調理麺・惣菜などの中食、デザートなどの好調により、客数・客単価ともにプラスとなりました。
日本百貨店協会によると、主要82社、238店における全店売上高は6兆1743億円(同:店舗調整前0.6%減、調整済0.2%減)となりました。訪日外国人の増加の恩恵を受けた主要10都市の店舗が1.2%増(店舗調整済)に対して、地方の店舗は3%減(同)に落ち込みました。
2014年4月の消費増税の影響が一巡したことで、プラス基調となりましたが、「消費の回復力は依然として弱い」との見方が多いようです。
百貨店売上高と呼応する印刷産業出荷額の動き
小売3業界の全店売上高と通信販売売上高、そして印刷産業出荷額の推移をグラフにしてみると、幾つか明らかになることがあります。
最も売上規模の大きいスーパーは、1997年の16兆8636億円をピークに低迷していましたが、単身世帯や共働き世帯の増加に合わせて総菜類などに力を入れ、2011年以降、全店売上高は持ち直しつつあります。
一方、コンビニエンスストアは1988年までは通信販売売上高と同じ規模ですが、翌1989年以降は急速に増加し続け、2008年には高額商品の販売不振に苦しむ百貨店の売上高を抜きました。その後もサービスの拡充や店舗網の拡大を続け、2015年には10兆円台となり、現在のペースで成長を続ければスーパーの売上高を抜くことも考えられます。
印刷産業出荷額は百貨店売上高と規模が近く、どちらも1991年と1997年をピークに減少傾向にあります。JAGATが毎年発行している『印刷白書』では、工業統計が全数調査を開始した1955年からの印刷産業出荷額の推移と、百貨店出荷額の推移を折れ線グラフにして比較しています。1955~1970年はなだらかに上昇し、その後1991年のピークまで一気に上昇し、1997年からM字カーブを描き下降してきました。2010年以降は百貨店売上高は横ばい、印刷産業出荷額は2011年以降は微減となっています。
百貨店は株高や訪日外国人の増加などで、既存店ベースの売上高は2014年まで3年連続で増加し、2015年は0.2%減とわずかながら及びませんでした。2015年の訪日外国人の客数は約250万人、免税品売上高は約1943億円で、客数・売上高ともに前年の2.6倍に膨らみ、2016年2月時点で37カ月連続のプラスを記録しています。
訪日外国人による国内での消費を「インバウンド消費」といいますが、大手印刷会社では既に訪日外国人向けサービスを打ち出しています。印刷産業全体にどの程度影響が及ぶのか、期待したいところです。
(JAGAT CS部 吉村マチ子)