デジタル社会のための印刷会社の従業員教育について
田中 崇 THOMSON PRESS
日本の成人のほとんどが携帯電話を使い、最近は急速にタッチパネル利用のスマートフォンを使うようになって、情報授受のための端末として利用されるようになり、紙を利用した情報は減少が続いている。
このような社会の変化に対応するために印刷会社は、従業員の教育に力を入れてきた。その教育方針は、従来の印刷物をより早く、より安く、よりきれいに作る という受注印刷物作りの進歩だけでなく、より広い分野の受注の研究が必要とされている。今回はインドの人材育成、教育機関などについて紹介する。
インドの印刷教育機関
インドではイギリス統治時代から独立後も上流社会を中心に英才教育、特に理系の高等教育を重視してきて、100 年の歴史を持つIISc(インド科学大学院大学)やIIT(インド工科大学)などの世界トップクラスの大学がある。インドソフトウエアサービス協会の報告 では、343 の大学と1 万6000 のカレッジが毎年44 万人の技術者を送り出していると報告している。これらの技術者がインドにある米国GE のコールセンターなどで働いている。印刷関係でも、18 のカレッジがあり、そのほかに多くの印刷トレーニングスクールがあり、ブラジルやタイと同様に日本やヨーロッパの政府援助や機械メーカーのサポートで印刷 の最新技術を指導している。
しかし、教育の中心はエンジニアリングや管理手法などであり、現場技術の教育をしているところはたいへん少ないので、日常の製造技術についてカイゼンの体 勢が不足している。もちろん、大手を中心とする先進的な印刷会社は、drupa やIPEXなど世界的な印刷機材展示会には多数の参加があり、GATF、PIRAなどにも入会しており、世界最先端の技術情報を持っている。
社員教育では、ほとんどの中小印刷会社は熟練技術者による高品質保持であり、日本のような細かい機材がないため、それらを活用しての教育ができない。そのため印刷物の品質の保持に問題があり、このような品質管理の面での日本の指導が求められている。
筆者が働いている会社では、10年ほど前から社内に印刷学校を作り、全国から高卒者を30 人ほど採用して全寮制で毎日、3 時から6時まで3 年間基礎教育と理論、実技の教育をしている。3 年間経つとほとんどが各工場のスーパーバイザー(主任)となり、第一線のオペレーターになる。一般的な印刷会社では、昔ながらの見よう見まねのマンツーマ ンの職人教育であるが、一方で長い経験による手仕事は相当高度の品質のものも多い。このことは、工芸品や、刺繍による女性用衣料品の美しさにも現れてい る。
インドの労働力
インドの人口11億人の6割ほどの人は農村に住んでいて、小さな畑を耕しながら1 時間もバスや自転車で街に通勤してパートの仕事をしていることが多い。3 割ほどの人はIT 関係や車関係の仕事で、IT およびその関連業はGDP の50% を占めている。
筆者が訪問した印刷会社では、いずれも営業や事務員は少なく、工場では機械主任と熟練職人が生産の中心で、2〜3 割は英語が読めない人もいる。
インドの先進的印刷会社の強さは、優秀な営業マンと世界最先端の機械とDTP などプリプレスの先端技術の強さと、さらに熟練労働者(月給3 万円ほど)と未熟練労働者の人件費の安さが競争力と見ることができる。しかし、人件費の配分を見ると先進国も発展途上国(インド)も日本と違って、一般の 従業員と主任、課長クラスの従業員との格差は数倍もあるのが普通で、このことは長い間の身分制度の歴史からくるものであるが、ネット情報の時代を迎えて、 世界の人々の人生観の変化から政治問題にもなりつつある。
(『JAGAT info』2013年9月号より転載)