返本や品切れのない新たな出版ビジネスとして、小ロット出版、オンデマンド出版の可能性が見えてきた。
着実な成長が見えてきた電子書籍
先般、インプレスグループから2013年の国内の電子書籍市場(電子雑誌を含む)が1,013億円と推計されるという発表があった。大きく成長した要因として、電子コミックの売り上げが急成長したことが挙げられている。
一方、出版科学研究所が発表している2013年の紙の書籍と雑誌の推定販売額は1兆6,823億円だった。
これらの合計を出版の全体として単純に計算すると、2013年の出版市場の6%弱を電子版が占めているということになる。
ここ数年の間にスマートフォンが急速に普及した。現時点で国内のスマートフォン契約者の総数は5千万件を超えている。つまり、5千万人はいつでもどこでもネットにアクセスできる環境にあると言える。
手軽に購入して、読むことが出来る電子書籍や電子コミックの売上が、出版市場の中である程度の比率を占めていくのは必然的なことだとも言える。
大部数出版のリスクと電子書籍による補完機能
現在の紙の書籍の出版の大部分は、大量部数を印刷・出版し、販売することを前提にしている。つまり、出版社はある程度まとまった量の印刷・製本を発注し、出版取次を通じて全国の書店に配本する。その書籍が順当に話題になり、売上を伸ばすと、出版社は増刷をおこなう。
しかし、売上が思ったように伸びない場合、流通在庫となり、最終的には返本となってしまう。また、在庫がなくなっても、ある程度の販売見込みがないと増刷することもできず、品切れ重版未定となってしまう。
品切れと返本リスクは、現在の出版ビジネスの最大の問題点であり、利益を圧迫する要因であると言えるだろう。
電子書籍、電子コミックの場合、物理的に製品を生産するわけではないので、在庫と言う概念はない。単純化して言うと、品切れも返本リスクもないということになる。そのため、電子書籍で先行出版し、反響によって紙の出版をおこなうような電子書籍マーケティングも可能となる。紙の書籍と電子版を並行販売しているなら品切れによる機会損失もなくなるだろう。
小ロット出版、オンデマンド出版の可能性
ここ数年、大部数の出版ではなく、小ロット印刷を前提とし、流通在庫を最小限とする小ロット出版の可能性が模索されている。
講談社や小学館ではグループ会社内にデジタル印刷機、製本システムを導入し、試験的に小ロット出版に取り組み始めている。どのような分野でどのような出版形式が向いているのか。例えば、文庫や新書分野に限定するのかなど、さまざまな可能性を模索しているようだ。
いずれにしても、返本リスクや品切れを最小限にする出版方法を模索しているようだ。
また、インプレスグループでは、技術書・専門書などの分野でオンデマンド出版を始めている。
アマゾンで読者からの注文を受け、1冊毎にアマゾンのPOD出版を利用して印刷・製本し、発送する。物理的な在庫や品切れのない仕組みである。現時点では本文がモノクロに限定されるなどの制約はある。しかし、大部数を見込めない技術書や専門書の出版のハードルを大幅に低くし、リスクの最小化に成功していると言う。
国内での小ロット出版、オンデマンド出版の本格化はこれからである。
大部数の出版だけでは、ビジネスが厳しくなっている。しかし、従来ではコストや品質面で難しかった少部数出版がビジネスとして成立するようになってきた、ネットを通じて注文することでオンデマンド出版も可能になってきたと言える。
デジタル印刷・製本の品質やコスト、用紙の開発など技術的な課題が無いとは言えない。技術面の進化と同時に、新たな出版スキーム、出版モデルの構築によって、小ロット出版、オンデマンド出版が大きく発展する可能性がある。
(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)
【page2015カンファレンス】
■2月5日(木)15:45~17:45
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【基3】PODビジネス、日本で出来るのか?