紙メディアと電子メディアの使い分け技術やその判断基準について触れる。
課題として残る紙と電子の使い分け基準明確化
インターネットが商用利用されるようになって20 年、誰もがその特性を理解しようと勉強し、実用の可能性を追求、仕事や学習、生活に採り入れてきた。いまやテレビメディアに次ぐ第2 の広告メディアの座を占め、絶え間無く生まれる技術革新が、20 年経っても続く2 桁成長を支えている。
あらゆるものがインターネットへの置き換えや組み込みの検討対象になり、その範囲は情報通信だけでなく、モノに及び実体性を持つまでになった。かつて唱えられた高度情報化社会や情報スーパーハイウェイ構想はいつの間にか実現して、我々はその中にいる。インターネットはこれからも利活用領域を広げていくだろう。
さて本稿で論じたいのは、進んでいるインターネットの利用技術ではなく、いまだ明確化されていない紙メディアと電子メディアの使い分け技術やその判断基準である。紙メディアを改めて研究電子メディアは後発であるがゆえに多くの人が後天的に勉強して理解している反面、水や空気のように当たり前の存在の紙メディアについて勉強した人はいない。大学など印刷業界外で話すたびに痛感する。
こうした情報の非対称が、電子メディアと紙メディアの選択の局面に多分に影響を及ぼす。結果として、ミスコミュニケーションや情報摂取・発信における非効率を生む。
海外ではPIA(米国)やTwo Sides(欧州)といった業界団体がペーパーレス化や紙を悪者扱いする動きにロビー活動や抗議活動を展開する。しかし生まれた時、既にインターネットがあった世代が増えていくに従い問題は増えるだろうし、問題が起きたときの個別対応では間に合わなくなる。
そこで、2 月のpage2016 では基調講演「紙メディアの特性と優位性、その科学的な表現の可能性」を、3 月29 日は「紙メディアと電子メディア、特性の科学的な考察」をテーマに研究会を企画した。どちらもスピーカーに東海大学の前田秀一教授と富士ゼロックス/東京工科大学の柴田博仁氏を招き、内容は学術的なものだが印刷業界内外から参加者は多く、関心の高さを感じさせた。
中立的・科学的・包括的な比較研究の必要性
紙と電子の比較は誰もが経験則を持つため一家言を持つが、これに基づいた議論は単に主観的である。中立的に科学的な裏付けを積み上げ、違いを明らかにすることが正しい紙と電子の使い分けを促し、結果的に紙需要を喚起する。費用対効果を強く求められる時代になって、業界利益の主張は避けて客観性を持ったほうが説得力を増す。
ある文章を読むとき、①紙②タブレットPC ③ PC モニターの3 つのデバイスのうち、どれが最適なのだろうか。読む早さ、理解度、そして記憶の程度に違いはあるのか、あるとすればどのような違いで、それは何を理由に生じるのか。
上述のような疑問について世界にさまざまな研究や発表があるが、各研究者がその時々の必要に応じて部分的に行っている。研究成果は各学会や各研究機関に散在して、現時点で統一的な見解を見つけるのは難しい状態だ。ある程度の数の学術的研究を概観すると、読むスピードに有意差はない、紙のほうが理解度はやや高い、記憶は紙での読みを通じたほうがやや優位、といった感じであることは分かる。
しかし、これも実験条件などにかなり左右されるため一概に言えない。つまり、実験結果は意外に中立的である。
紙と電子の比較研究がもたらす共存の未来
どちらが優位かは別にして、紙と電子の微々たる違いも、日々の情報摂取行動や情報発信、そして教育を通じ、長期的な人間形成や企業活動に大きな差を生んでいくだろう。つまり、紙と電子の違いを科学的に明らかにすること、紙と電子の違いについての正しい理解を普及することが大切と考える。
そうすることで、かえって非効率を招くようなペーパーレス化を未然に防ぎ、子供の教育効果も高まり、費用対効果を最大化するクロスメディアマーケティングも容易になる。この領域の包括的な研究を深めていくつもりである。
(『JAGAT info』2016年4月号より 研究調査部 藤井 建人)