【クロスメディアキーワード】企業とメディア
高度情報化社会が到来し、経営戦略の要が「改善」から「革新」へと変化し始め、効果的かつ効率的な情報の受発信が重要視される。経営戦略におけるメディアは、顧客だけではなく投資家も含めたさまざまなステークホルダー(利害関係者)とのコミュニケーションを支える企業価値の源泉となっている。企業の理念や方向性、商品開発やステークホルダーに対する意識などを伝達することで、事実の正確な認識と理解を社会に対し促す活動が必要とされている。
企業のコミュニケーション
企業の経済活動による目的達成には、明瞭かつ迅速なコミュニケーションが重要となる。
経営戦略は、事業戦略や商品戦略、財務戦略、人材戦略などを足したものだけではなく、経営戦略の下にそれぞれが有機的に統合されていることが望まれる。
広報や宣伝、渉外などの統合的な管理運営には、近年の経済情勢による資源的制約の厳しさの中で、IT(Information Technology)の発展によるインタラクティブメディアの普及、さらに発言力を持つステークホルダーの拡大などを伴う。しかし、明確な戦略に従う組織の横断的な連携によるコミュニケーションをステークホルダーと図る企業は着実に増えている。
企業とメディア
生活者向けのペーパーメディアであれば、チラシやカタログ、新聞広告、ダイレクトメールなどへの展開が、販売戦略を支える。例えばチラシを発行する場合、配布エリアによって生活者の属性は異なり、発行する時期によって商品に対する需要が変化するため、さまざまな対応が迫られる。
「商品が欲しい」と潜在的に思っている生活者が、紙面を手に取り、商品を購入するためには、過去のメディア展開実績や市場の動向など、さまざまな角度からの分析が必要となる。その分析結果から導き出した仮説を基に、配布する時期や掲載する商品の構成、エリアにより配布するチラシの種別を決定する。ここで立案される戦略は、企業の収益に影響を与えるため、何度も検証を繰り返し、最も効率的かつ効果的な展開を目指して取り組むことが望まれる。また、メディアを使用するキャンペーンでは、各メディアを横串でつないで取り組む施策が取られることもある。
さまざまなメディアが相乗効果を発揮するためには、キャンペーンの骨格が重要であり、組織の横断的な連携が必要なこともある。
生活者の購買行動
生活者を取り巻く環境は、IT の発展とメディアの多様化により、情報過多の傾向にあるといえる。生活者が受動的だけでなく能動的に情報を入手する中、商品の差別化が困難な状況を企業は迎えている。1920 年代にローランド・ホールが提唱した「AIDMA」に見られる生活者の購買決定に至る心理プロセスでは、「注意(Attention)」「関心(Interest)」「欲求(Desire)」「記憶(Memory)」「行動(Action)」といった効果階層による分類をたどる生活者の購買行動が一般的だった。
インターネットの普及により、昨今の心理プロセスの変化を捉え、「検索(Search)」「共有(Share)」を考慮した電通の登録商標である「AISAS」モデルや、ソーシャルメディアを念頭に入れ「比較(Comparison)」「検討(Examination)」を押さえた「AISCEAS」モデル、「共感する(Sympathize)」「確認する(Identify)」「参加する(Participate)」「共有・拡散する(Share &Spread)」により構成される「SIPS」モデルなどが登場した。生活者の心理プロセスを捉えた企業による情報発信には、ストーリー性が不可欠となっている。その中で、販売戦略を包含するマーケティング戦略の一つとして、クロスメディアが一般化している。
クロスメディア
クロスメディアとは、文字や画像、音響、映像などさまざまな表現を用いた、複数メディアによる複合的な情報発信手法を指す。「多様なメディアを駆使し、効果的な情報伝達を行う」といった意味を含む。また、クロスメディアと混同される傾向があるメディアミックスは、ターゲットとなる生活者へ情報を到達させるためのメディア配分を重視する手法を指す。
メディアミックスがメディアの足し算による情報発信であることに対し、クロスメディアは掛け算によるメディアの相乗効果を利用する手法である。クロスメディアにより、ターゲットとなる生活者だけではなく、投資家も含めたさまざまなステークホルダーを動かすためのシナリオ(導線)づくりが実現できる。
メディアコーディネート能力
企業のメディアによるコミュニケーションをコーディネートできる人材は、さまざまなビジネスシーンで求められている。求められる人材には、複数のメディアに関する知識や技術を継続的に学習する姿勢と経験が必要になる。
コミュニケーションを目的とした情報の受発信では、対象や内容、時期、場所などの明示が不可欠である。また、メディアが混在する今日では、メディア特性の理解や取り扱いに関する経験の重要性が高くなる。
メディアに関するサービスが散在する中、関連する知識や技術を習得するには、大きな困難を伴う。しかし知識や技術を習得する方法は無数に存在し、習得から距離を置くことは、高度情報化社会から自身を乖離させてしまう恐れがある。
企業は、多くのステークホルダーとの関係性を視野に入れた、メディアによるコミュニケーションを重要視している。度重なるコミュニケーションにより有効な関係が構築できれば、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の向上も期待できる。コミュニケーション手段としてさまざまなメディアを活用するのであれば、効果的なコンテンツ(クリエイティブ戦略)やメディア戦略が必要となり、幅広い知識や技術の習得が不可欠となる。
クロスメディアの採用は、さまざまな専門家との連携が欠かせない。そのためメディアのコーディネーターとして、複数のメディアによる効果的な情報発信をコントロールする上では、進行管理能力も重要である。したがって、プロジェクトマネジメントなどコミュニケーションに関する知識や技術の習得も必要である。
IT によるメディアの発展と変化は、際限なく続くことが予想される。メディアのコーディネーターを目指すには、これまでの経験に加え、新しい知識や技術を体系化し、見直しを改めて行う積み重ねが大きな力となる。さらに、少なくとも2〜3 年以上先を見据えたメディアに対する見識も求められる。また、クリエイティブに主眼を置くだけではなく、課題を明確にした上で目的を定め、それを達成することが大切である。企業のメディア活用には、リスクの検証も必要であり、社会の動向をマクロ的視点で捉え、ミクロ的視点で需要や課題を捉える能力が重要となる。
JAGAT CS部
Jagat info 2014年5月号より転載