【クロスメディアキーワード】ユビキタス
パロアルト研究所の技術主任であった「マーク・ワイザー」が1991年に提唱した「ユビキタスコンピューティング」における「ユビキタス」とは、利用者が存在や操作を意識することなく「いつでも、どこでも、誰でも」コンピューターを使用できる環境の総称を指す。
ユビキタスとコンピューター
「ユビキタスコンピューティング」での「コンピューター」は、あくまでも利用者が「意識せず」に使用できなければならない。1984 年、坂村健による「リアルタイムOS」仕様の策定を中心としたコンピューターのアーキテクチャーを構築するプロジェクトである「TRON(トロン)プロジェクト」では、最終目標に「どこでもコンピューター」といったコンセプトが掲げられていた。このコンセプトは「ユビキタス」の方向性と近似しており、その後の日本におけるユビキタスの展開にとって、大きな影響を与えたといわれている。
1990 年代の後半から、携帯電話が普及しインターネット利用も実現したことで、さまざまなサービスをどこでも享受できる環境が提供され始めた。
ユビキタスの実現により、小型化した情報端末がさまざまな製品などに組み込まれると考えられた。「スマートウォッチ」に代表されるコンピューターの機能を身にまとうウェアラブルコンピューターの実現や、さまざまな製品や資材に付与され情報を管理する「ICタグ」の普及のほか、インターネットにつながる端末数を大幅に増やす「IPv6」の定着などにより、「ヒト」と「ヒト」がつながり、「モノ」と「モノ」が結ばれる本格的なユビキタス社会が実現すると考えられており、それを支える機器類の互換性が不可欠となる。既に普及した「スマートフォン」や「タブレット」などの端末により、遠隔からの操作が可能な機器類も市場に展開されている。
技術の標準化は「WWW」の機構である「W3C」による「ユビキタスに関するワークショップ」の開設や、各国での標準化団体による「IC タグ」の規格化や標準化の促進などにより対応が進められている。
なお、総務省は2004 年に次世代「ICT 社会」の実現に向けた中期ビジョンである「u-Japan 政策」を発表しているが、「u-Japan 政策」の「u」には、「ユニバーサル」「ユニーク」などと共に「ユビキタス」の意味が込められている。
ユビキタスの分類
ユビキタスは大きく3 つに分類することができる。
1. ユビキタス・コンピューティング
コンピューターということを生活者に意識させず、コンピューター本体や周辺機器の区別もなく、人々の生活環境に溶け込んだ状態を指す。
2. ユビキタスネットワーク
コンピューター同士が自律的に連携、動作する状態で、監視カメラやセンサーネットワークなどがインターネットと接続し、有機的に動作するシステムもある。
3. ユビキタス社会
ユビキタスに関連する技術により、人間らしい生活を実現する社会を指す。
ユビキタス社会とクロスメディア
ユビキタス社会とは、ユビキタスコンピューティングが実現している社会環境を指し、「生活環境のあらゆる部分に情報通信環境が浸透し、利用者が意識することなく利用できる技術」が実現している社会を意味する。
ユビキタス社会では、「2 次元コード」や「IC タグ」「デジタル家電」など、主にインターネットに接続するさまざまな技術やメディアについて理解が必要となる。不可視であるデジタルデータがコンピューターやネットワークの境界を超えて移動するようになった利点がある一方、データ流出に起因する個人情報の漏えいや、ウィルスによるシステムの破壊などのリスクが大きくなる面もあり、システムの構築や利用については、セキュリティーに対する十分な対策が必要となる。
人々の生活に深く関わる以上、「IT」による「ユビキタス」を意識したサービスの提供者は、利便性の追求とともに社会的責任を自覚しなければならない。このような社会変化に適応するように、事業構造の改善や、メディアの新たな活用方法も模索されている。
ユビキタスに関連する代表的な技術や用語
・2 次元コード
従来のバーコードと比べ格納できる情報量が多く、表示するスペースを小さくできる。ペーパーメディアとWebサイトを連携するキャンペーンで多用されている。
・ICタグ
トレーサビリティーに関連する活用が進んでいるが、生産コストの圧縮が普及へ向けた課題とされている。リーダーの悪用によって個人情報を漏えいする恐れもあり、セキュリティーに対する注意も必要である。
・デジタル家電
インターネットに接続することで、サービスの更新や拡張ができる家電を指し、情報家電とも呼ばれる。クラッキングの対象となり得るため、セキュリティー対策も課題となる。
・コンテキスト
コンテキスト(Context)とは、(文章の)前後関係、文脈、または(ある事柄の)状況、背景などといった意味があり、用例により訳が異なる。
・クラッキング
クラッキングとは、悪意を持ったコンピューターネットワークへの不正な侵入や、コンピューターシステムの破壊や改ざんなどの行為を指す。ハッキングも同様の意味で使用されることがあるが、「悪意や害意を伴うハッキング」がクラッキングと呼ばれ、「ハッキング」と区別される。
・IoT
「IoT(Internet of Things)」とは、従来は主に「コンピューター」や「プリンター」などの「IT 関連機器」が接続されていたインターネットに対し、それ以外のさまざまな家電や家具などの「モノ」を接続する技術を指す。「モノ」に対しさまざまなセンサーを付与することで、インターネットを介した状態の監視や操作などにより、安全で快適な生活を実現しようとしている。
JAGAT CS部
Jagat info 2015年8月号より転載