2016年10月に刊行される『印刷白書2016』について、会長塚田司郎よりご挨拶させていただきます。
当期の経済情勢を見ますと、アメリカ経済は雇用環境が改善し個人消費も持ち直しており、順調な景気回復が続いていますが、年内には金融政策正常化の動きが予想されます。
欧州経済は、イギリスのEU からの離脱により先行きは不安定であり、新興国においても資源価格の下落が続いており、マイナス成長の国々も多くあります。9 月現在の日本経済は1 月の日銀による「マイナス金利政策」の決定にもかかわらず消費は伸びず、為替は対ドルで100 円台と円高が進み、株価も16,000 円台にとどまっています。
印刷業界におけるハイライトは4 年に一度デュッセルドルフで開催される世界最大の印刷関連展示会drupa で、今年で16 回目を迎えました。「インクジェットdrupa」と呼ばれた前回同様、展示された印刷機の多くはインクジェット機やトナー機などのデジタル印刷機で、そのほとんどはヘッドと用紙搬送のメーカー同士のコラボレーションかOEM の機械でした。かつては品質上の理由から、トランスプロモーションなどのデータプリントサービス(DPS)が主な用途だったインクジェットも、各メーカーが品質の向上を目指してそれぞれの技術でしのぎを削った結果、出版用途の他にカタログ、パンフレットなどの商業印刷分野、また今回は軟包装やパッケージ向けの機械も増えてきました。
従来のオフセットの技術では、何万枚でも何百枚でも印刷するのに同じ版を使い、同一の絵柄を複製するので、ますます多様化していく現代社会のニーズや、ロングテールと呼ばれるニッチな要求に応えることは現実的ではなく不可能でした。しかしながらdrupa で展示された、版が不要で解像度の高いインクジェット印刷機が市場に導入されていくと、やがて在庫が減少したり、労働集約的な製本工程が改善されたり、再版できずにいたタイトルが出版されたり、カタログやDM のバージョニングやパーソナリゼーションによるマーケティング面でのROI の向上が可能となります。
2015 年は音楽の定額配信が話題でしたが、2016 年は雑誌の定額配信に参入するプレイヤーが増え、デジタル経済への移行はますます進んでいます。このようにスマートフォンやタブレットといったデジタルメディアが浸透して紙メディアの需要が減少すれば、印刷企業の経営面ではBEP(損益分岐点)が高くなってしまうため、従来ビジネスのコスト構造は全般的な見直しを迫られます。W2P(Web to Print)でのオーダーテイキング、ワークフローやマーケティングの自動化、アンシラリーサービスの検討、ニュービジネスの創造などやるべきことが山積みです。
デジタルイノベーションや産業の動向までもカバーしたこの『印刷白書2016』が皆様の企業の新たな変化に役立つことを願っています。
2016年10月
公益社団法人日本印刷技術協会
会長 塚田司郎
書籍発刊のお知らせ
『印刷白書2016』2016年10月発刊