drupa2016ではインダストリー4.0を意識した提案が各メーカーから出されていた。
インダストリー4.0をもじったPrint4.0という造語も生まれたが、印刷業界版のインダストリー4.0の姿を改めて考えてみたい。
ドイツでの定義によれば
第一次は蒸気・水力による機械化
第二次は電力による大量生産
第三次がコンピュータによる自動化
それに続く第四次産業革命がインダストリー4.0であり、デジタルネットワークのインフラ(IoT)を基盤として、
・機械と機械が直接コミュニケーション(データ通信)を行う
・機械から収集されたデータを解析し、生産管理や機器の調整、保全に用いる
これらの機能により全製造工程の全体最適化、すなわち工場間、企業間を横断して、変種変量生産(マスカスタマイゼーション)を自動、自律的に行うことを目指すという。
これを印刷業にあてはめて考えたときに、まず思い浮かぶのがJDFのコンセプトである。
JDF drupaと呼ばれた2004年。JDFも全体最適をコンセプトに登場した。下図は当時、JDFのコンセプトを表したイラストである。
丘の上に立っているのが印刷物の発注者であり、居ながらにして、印刷物の制作工程全体をリアルタイムで把握することができるというメッセージである。当時は“発想”から“発送”までをカバーすると言われた。今風にいうと“End to Endの最適化”と言えるだろう。
こうしたコンセプトを受けて、全体最適化された印刷会社の姿とはどのようなものなのかを2004年当時JAGATで考えて図にしたものが下図である。
印刷会社を第1階層 生産現場、第2階層 工程管理、第3階層 経営管理という3つの階層に分けている。
社内にはデジタルネットワークが張り巡らされていて、MISを中心にさまざまな製造機器がつながっている。動脈をイメージした赤い矢印上を指示情報や経営の意志決定の情報が流れ、静脈をイメージした青い矢印上を生産の実績情報が流れる。
JDFの規格で言えば、作業指示や設備のコントロール情報がJDFのジョブチケットの形でMISから製造機器に流れ、生産の実績情報、あるいはリアルタイムの機器の状況がJMFという形でMISにフィードバックされる。
それぞれの階層の機能をもう少し詳しく説明する。
○生産機能(第1階層)
機能:生産設備間、MISと生産設備間の情報流通
仕組み:JDFワークフロー
効果:準備作業時間短縮、ミスロス削減
工程管理の精度向上(的確な状況把握、生産計画の最適化)
CIP4/PPFによる印刷機のインキキープリセットのような自動処理が、プリプレス工程(例:面付け)やポストプレス工程(例:折り機や綴じ機のプリセット)にまで拡大される。
生産設備からMISへの情報のフィードバックによって、リアルタイムで詳細な仕事の進捗、各現場の負荷状況把握が可能となり、スムーズな作業進行、ミス・ロス削減を実現。
○工程管理機能(第2階層)
機能:顧客/営業/工務/生産現場/協力会社/資材調達先間の情報流通
仕組み: Web、EDI/EC、JDF
効果:進捗状況の可視化による問い合わせの削減
印刷物の受発注、資材調達業務の効率化
イントラネットなどを活用し、多種多様な照会/依頼・指示/変更のやり取りの省力化、情報共有化を図る。
顧客/営業/工務/生産現場の間では、無数の照会/依頼・指示/変更のやり取りがなされている。コミュニケーション手段は、仕様書や指示書といった紙を使ったり、あるいは電話やFAXを使ったり電子メールを使ったりとさまざまである。その手間もさることながら、情報が行き交うなかで誤解や思い込みによるミスやロスが多々発生している。それらを改善する。
顧客にとって印刷物の調達業務は一般の物品調達に比べ非常に煩雑であり、業務効率化のニーズは高い。
JDFは受発注におけるデータ交換にも用いることができる。CIP4では、印刷物の電子商取引については、PrintTalkとJDFを用いて行うという枠組みができつつあり、欧州では実証実験の事例もある。PrintTalkは印刷物の電子商取引用の標準規約であり、BtoBの電子商取引の標準規約cXMLに準拠している。
○経営管理機能(第3階層)
機能:各種情報の統合的利用
仕組み:統合化MIS、シミュレーション機能
効果:シームレスなデータ収集・集計による判断の迅速化
これまで取れなかった詳細な情報の分析、シミュレーションにより判断の的確化
生産実績、生産性に関する詳細なデータに基づき、標準工数、標準原価などを検討することができる。
得意先別の受注金額と実際原価比較などを行うことによって、経営の概況を適切、正確に知り、次の経営計画に反映することができる。
このイラストを作成してから干支は一回りしたが、中身はほとんど色褪せていない。インダストリ3.0と4.0の間くらいにはあるように思う。
蛇足ではあるが、この図にAIのような学習機能を持った印刷機の実現を目指したAMPACという標準規格の概念を追加すると、かなり4.0ライクになると個人的には思っている。
「だんだん賢くなる印刷機」は夢物語か?
https://www.jagat.or.jp/past_archives/story/3061.html
工場間、企業間を横断した最適製造あるいは、マスカスタマイゼーションへの対応にしても、こうしたMISを中心とした生産ITシステムは基盤となるだろう。
さらに将来的には、お客様(印刷物の発注者)のマーケティングツールなどとダイナミックに接続して、文字通りEnd to Endの自動化が実現されていくだろう。
APIが公開されたクラウド上のオープンなプラットフォームというHP社のPrintOSのコンセプトは、こうした将来像を予感させるもので興味深い。
page2017カンファレンスでは、単なる省力化やコストダウンにとどまらない新しい自動化の姿について考えてみたい。
(研究調査部 花房 賢)