2016年の印刷市場は必ずしも好調なわけではなかったが、そうした状況のなかにも良い方向への変化の兆しを見つけることができる。2017年を考えるために、2016年について様々な材料から振り返る。
■2014年:行き過ぎた市場縮小の一段落、脱デフレの兆し
「工業統計」によると2014年の印刷産業出荷額は0.2%減の5.5兆円。減少幅(0.2%)はリーマンショック以降の最小を更新。2012年と2013年の印刷出荷額の減少幅も1%台と小さかったことを考え合わせると、加速度的な市場縮小は落ち着いたと見ることができる。消費増税の4月前後に空前の駆け込み需要と反動減があり、特に折込チラシなどはその影響が長引いた。しかし年間を通じれば印刷会社の売上高は差し引きでプラスとなった。税率は5%から8%へ、マクロ経済はデフレから脱デフレへ、為替は円高から円安へ、経済環境は数年~数十年単位の大きな変化が相次ぎ、これらが重層的に作用してデフレ時代とは違う影響を印刷市場に与え始めた。印刷市場が安定し始めたことを意味する指標や事象が現れた。
■2015年:印刷経営の質の改善が進む
「JAGAT印刷産業経営動向調査2016」に基づき2015年の印刷経営を考察する。印刷会社の売上高は3年ぶりの減少、経常利益率は2年連続の低下。しかし生産性は改善した。1人当り売上高は4年連続で増加、長期に低下していた1人当り人件費は2年連続の上昇。生産性改善の果実が従業員分配に回り始めた。設備投資も活発化、印刷経営者の意向として設備投資を「増やす」が「減らす」を2年連続で上回った。投資負担によって表面的な利益率は低下したが、営業キャッシュインフローは増加していることをみると、潜在的な稼ぐ力は増したのではないか。人的資源や設備など印刷経営の質的な改善が進んだといえる。
■2016年:印刷市場はやや軟調、地域別や製品別にバラつき
「JAGAT印刷業毎月観測アンケート」に基づき2016年の印刷経営を振り返る。売上高は3月まで前年が低調だったことによる反動増と年度末予算消化の駆け込み需要もあって2ヵ月連続の増加。4月以降は10月まで売上高が低調に推移。落ち込みは小幅だったが7ヵ月連続の落ち込みは2012年12月~2013年6月以来。地域別には首都圏と大阪圏の不振が全体を引き下げた。特に大阪圏は10%以上も減少した月があった。この2大経済圏は昨年まで盛り上がった訪日外国人による爆買いの落ち着きも一要因のようだ。その恩恵のもともと薄かった名古屋圏は2016年も底堅く、輸出産業の牽引もあって独自の市場を形成している。
■2016年:印刷会社経営者の声には明るさも
好調さを指摘する経営者の多かった2015年とは異なり、「厳しい」と表現する経営者が目立った。全体が総じて悪いわけではなく、部分的には良いところも多少はあったという感じが2016年の特徴の一つ。「○○は不振だったが、新規に取り組んだ××は良かった」「紙以外は増えた」という感じである。製品別でいえばチラシ、地域別でいえば首都圏と大阪圏が特に厳しかった。「なんとか底打ち」「会社の底力を感じた」「踏みとどまった」「久しぶりに営業利益」といった底打ち反転を感じさせる声の多いことも2016年の特徴。印刷経営者の声からは現在迎えている売上高の足踏みを再成長へ向けた踊り場と捉えることもできる印象を受ける。
■2016年:印刷製品別の動向、印刷製品再評価の動き
印刷物生産金額はこの数年とは異なって年間を通じて軟調に推移した。好調だった商業印刷も微減ながら減少に転じ、出版印刷は年間を通じて低調。包装印刷と事務用印刷は堅調、後者はトランザクション系のデジタル印刷を含む会社があるだろうことも堅調の一要因だが、市場規模そのものが帳票類の減少によって既に相当程度に小さくなっている。一方でかつての大手印刷需要家が「紙に回帰」する、「これまでにあまりにも紙を軽視し過ぎた」との見解を示したとの報道に象徴されるように、紙からデジタルに急速にシフトし過ぎた反動で、不便さを感じて紙に戻ってくるような印刷物再評価の動きもみられた。減らし過ぎの反動だから印刷需要を大きく増やすわけではないことに留意しつつも、再評価の動きについては歓迎したい。
■2017年:印刷ビジネスに影響を与える要因の洗い出しと評価が鍵
2016年は年末に向かって株価は19000円台に上昇、為替は117円台まで円安が進行、政府も景気判断を上方修正するなど経済の好調さを示す材料が現れた。その恩恵のない印刷市場と好調な日本経済という温度差をどのように理解すべきか。トランプ次期米国大統領への期待相場の持続性はどうなのか。ガス自由化、東京オリンピックへ向けた都心部や主要経済圏での物件再開発ラッシュや、英国のEU離脱など海外で相次ぐブロック経済化への流れはどのように我が国の印刷ビジネスにどのようなインパクトを与えるだろう。そして、ほかにはどんな材料があるだろう。新年度を考える会社が多いこの時期、注意を払って情報を収集、様々な変化が自社に及ぼす影響を見極めるようにして来たる2017年度に備えたい。
印刷総合研究会 印刷マーケティング部会
(JAGAT 研究調査部 藤井建人)
※関連レポートはJAGAT会員限定誌「JAGAT info」2017年1月号に掲載予定
※より詳細な分析を加えた研究会を下記開催予定
<関連セミナー>
■2017年1月25日(東京)、27日(大阪)開催 研究会
「印刷ビジネスの動向と展望2016-2017」
■2017年2月8日~10日(池袋サンシャインシティ)
page2017基調講演
page2017カンファレンス
<関連書籍>
「印刷白書2016」
「JAGAT印刷産業経営動向調査2016」
「印刷会社と地域活性 Vol.3」
「デジタル印刷レポート2016-2017」
「デジタルハンドブック」