クロスメディアは業態変革の基本テーマ

掲載日:2017年1月17日
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(寄稿)クロスメディアエキスパート認証試験取り組み企業に聞く

株式会社 久栄社 専務取締役 森井 紀明

印刷会社の業態変革に必須の要素

株式会社久栄社は、遅ればせながら2年程前から、JAGATや全印工連など業界の知見・枠組みも参考にしながら、事業改革や業態変革に取り組んでおります。映画関連のお客様を中心に「特定業種スペシャリスト」的に「エンタメ戦略」を先行しつつ、我々なりのマーケティング・サービス・プロバイダー(以下MSP)への進化を目指していますが、お客様を中心に据えてソリューション営業を展開し、営業力と商品力の両方の改革を具体的に推進することが、業態変革の要諦であるという考え方に立脚し、試行錯誤しながら、チャレンジを続けております。

大きなインパクトがあったのが、2015年4月発刊のWebb博士等の「未来を創る」(注1)であり、役員・幹部全員に配付して研究し、“page2015”の基調講演なども最大限活用し、業態変革のあり方・進め方を掘り下げて探求する機会となりました。マーケティング・オートメーション(以下MA)という新たなテーマも含め、クロスメディア展開が商品力に係る方法論として必須の要素であることを改めて強く認識し、お客様の潜在課題を軸に企画提案を行い、デジタルメディア系の協力会社と積極的に協働連携しつつ、少しずつフィールドを広げているところです。

認証試験活用の経緯と位置づけ

クロスメディアエキスパート(以下CME)認証試験に係る取り組みは、2015年初夏、東京都の事業をベースとしたJAGAT主催の資格取得支援講座の話を聞き、申込期限間際でしたが即断で3名希望を出し、社内で人選をして参加させていただいたのが契機です。その後、部下も含めて社員を送りこんだものの、内容を理解しておく必要性を感じ、試験1ヶ月前のガイダンスに参加したところ、結構、奥が深くて面白そうだと感じ、若返りも兼ねて自身の参戦を決めました。8月の試験当日は社員の応援という名目を言い訳にして臨みましたが、第1部試験は合格したものの、第2部試験は流石に1度も書く練習をせずに本番に臨んだ結果、見事に不合格で、部下が合格してくれて面目躍如という状況でありました。その後、学んだことをお客様の課題整理や提案営業に意識して活用しつつ、改めて3月試験に再挑戦、部下から支援講座の資料も見せてもらい、事前に時間を計って解答練習も2度行い、お陰様で何とか合格致しました。負け惜しみではなく、2回受験したことで、相応に内容を深く理解することができたと思っております。

実は、2015年は日本プロモーショナル・マーケティング協会にも加入し、9月にはJPM協会展に初めて出展、お陰様にてエンタメ系で「進撃の巨人」のスタンディで金賞を戴きましたが、こちらのプロモーショナル・マーケティング(以下PM)認証資格試験も活用余地を探ろうと、更なる若返り(?)を兼ねてチャレンジし、合格して体感しました。

自分自身が試験勉強を通じて理解を深める中、会社のお客様に対するソリューション営業のレベルを上げていくには、クロスメディア展開とプロモーショナル・マーケティング展開が重要な軸になることを実感し、CMEとPMの両方の活用が有意義と考えるに至り、現在、中堅・若手を中心に社内で資格取得を奨励・支援するとともに、基本的なコンセプトや枠組みを実践で活かせるよう営業支援活動をしております。

CME認証試験の具体的有用性

第1部試験は、基礎となる知識を網羅的に整理・習得できることに加えて、毎回常に最新のテーマを織り込んでおり、MA(マーケティングオートメーション)やAR(拡張現実)など、試験中に問題の表現に感心したり、新たな気づきを得るようなことも多かったと思います。

第2部試験は、率直なところ、時間が相当厳しく、もう少し時間があれば合格水準の解答を書ける人もいると思うので、次回から時間が延びることは歓迎です。解答様式も特徴的ですが、先ずお客様の課題を整理し、お客様の想定ターゲット顧客、いわゆるペルソナを設定し、コンテンツやコミュニケーション施策を具体化し、施策に使用するメディアと選定理由を整理する流れは、実際の問題解決型のソリューション営業の「形」を学ぶ実践練習になります。しかし、最も大切なのは、提案書の本編であり、首尾一貫した論理性を確保し、お客様が魅力的に感じる表現力を発揮しつつ、各々のメディア特性を踏まえた具体的なクロスメディア連携のストーリーと実効性をどれだけ的確に呈示できるかが勝負だと思いますが、実際の仕事にも大いに通じる部分が多いと感じております。

カスタマー・ジャーニー・マップと実践展開

お客様への実践展開を通じて手応えがあったのは、CMEのカリキュラムにはありませんが、ペルソナを設定して、実際にお客様のカスタマー・ジャーニー・マップを書いてみることです。世の中には様々なマップフォーマットがありますが、大切なのは、AIDMA・AISAS・SIPS等の要素を抽出・混合し、お客様毎に最適なシナリオやステージの設定を行い、ペルソナが置かれる具体的シーンを想定しつつ、メディア・チャネルやタッチポイントを具体化し、ペルソナの行動・思考・感情にも踏み込みながら、お客様の課題を明らかにして、戦略・施策の方向性を探っていくプロセスです。またその中で、印刷メディアとデジタルメディアがどのように連携していくことがペルソナの最終的アクション(購入・利用)とファン化に有効か、具体的なストーリー展開を描く思考プロセスを磨くことが最も重要です。

クロスメディアという概念は、印刷物やデジタルも含めて、複数のメディアが別々に展開されるのではなく、お客様が或る目的を達成する為に複数のメディアを時と場合に応じて使い分け、また相互に連鎖してクロスして繋がる形で利用するという時代に入ってきたことを表現しております。

印刷会社がお客様を中心に据えてソリューション営業を展開するということは、究極的には、お客様のカスタマー・ジャーニー・マップを具体的にイメージして、お客様と同じ視点で印刷以外の複数のメディアも視野に入れてメディア連携のあり方を考えるということだと思います。

クロスメディア展開における印刷の訴求力

印刷は、Webb博士が仰る通り、もはや主流のメディアではないものの、独特の存在感や長年の実績に基づく信頼感を有しており、他のメディアを補完することで、新たな価値が見いだされてきていると思っております。

デジタル時代の「印刷の新たな訴求力」として、昨年、以下のような整理をしました。

①デジタルメディアの情報量は加速度的に急増しており、情報が振り向かれず、埋没しがちなのに対して、有限なリソースに基づく印刷物・紙は、人目に触れやすく、埋没しにくい存在感があるため、クロスメディアの中で印刷物が他のメディアと連携して、印刷物が起点となって他のメディアへの移行を誘発するなど、印刷物が重要な結節点となってくる可能性がある。
具体的には、QR・ARを利用した場合、印刷物は、限られた情報の伝達手段としてインパクトを示しつつ、Webや動画など情報豊富なデジタルメディアに誘導するのに効果を発揮するというような例です。初期の認知(Attention)の段階にあって、“Attention Catcher”とでも言うべき役割を果たすわけです。

②印刷物は、不特定多数への働きかけという点では、デジタルメディアに対してコスト的に分が悪いが、デジタルメディアで育成・ナーチャリングされた、相応の関心を有するペルソナに対しては、ここぞとばかりに圧倒的な訴求力を示すことができます。コミュニケーションプロセスの後半でペルソナに存在感を示せるという点では他の追随を許さないとも言えます。
具体的には、MAの機能によって育成され成熟してきたペルソナに対し、DM等で印刷物を送付すれば、切り札としての機能を発揮しやすく、費用対効果も上がるという例があります。認知や興味・関心(Interest)の段階から進み、情報収集・比較(Search・Comparison・Examination)から購入・利用(Action)検討の段階へ至ったところで、バリアブルでカスタマイズした印刷物を送ることで、“Personal Door Knocker”や“Decision Influencer”というような機能を発揮することが期待できます。

クロスメディアを前提とする世の中になってきたことで、印刷物や紙の価値・訴求力が、更に純化され、研ぎ澄まされ、際立ってきており、これから更にそうなっていくのではないでしょうか。印刷会社としては、それを前提に、個々のデジタルメディアの特性やクロスメディア展開にも精通しつつ、全体の中で印刷物・紙の活用について「ここは印刷物の出番です!」と一層自信を持ってお客様に奨められる存在でありたいと思います。

印刷物・紙の訴求力という観点自体については、「五感」への訴求力や認知科学からの分析に加えて、“page2016”の基調講演では「科学的表現の可能性」が呈示され、多方面からの研究・分析がありますが、印刷会社の持つべき重要な視点の一つとして、クロスメディアの中での印刷の訴求力ということをしっかりと体得したいものです。

それを新たな付加価値としてお客様に貢献していく上で、CMEのマインドセットや思考様式、専門知識や実務スキルは基礎をなすものと考えており、組織力という次元で定着するよう地道に活用を図っていきたいと思っております。

なお、クロスメディア展開自体は商品力の改革に係るテーマではありますが、CMEのフレームワークは商品力のみならず営業力の改革にも大いに資する内容と考えており、業態変革の大きな軸として位置づけられるものと考えております。

(注1)『未来を創る  – THIS POINT FORWARD –』監修・発行JAGAT