多版メガロットという発想

掲載日:2017年1月20日


page2017カンファレンス「価値をつくる自動化」スピーカーの(株)グーフ岡本幸憲氏からの提言(その2)


page2017カンファレンス「価値をつくる自動化」セッションでは、事前に概要を公開していきます。予備知識として知っていただくことで、セッション内容の理解を深め、当日の議論をより有意義なものにしたいと思います。

スピーカーの株式会社グーフの岡本氏から前回の問題提起に引き続き、今回は多版メガロットというモデルの提言です。


パーソナライズしたバリアブルDMというアイディアはデジタル印刷が登場した頃から存在していたが、ようやく環境が整ってきた。お客様のIT環境の成熟が背景にある。ECサイトの利用が一般化し、顧客情報、商品情報、購買履歴といった情報の一元管理が進んできた。デジタルマーケティングの進化も実は追い風になっている。ECサイトで「あなたへのお薦め商品」を選び出すレコメンドエンジンは紙のDMにも転用できる。
かつては紙対デジタルの対立軸が語られていたが、EメールのDMだけでは開封率やレスポンス率は伸び悩み、さまざま機関が出している調査データにおいても紙のDMの有効性が示されている。

紙メディアとデジタルメディアの相互補完、まさにクロスメディアの提案が求められつつある。オウンドメディア、SNS、SFA、MAツールなどと連動し、オムニチャネルを意識した導線設計の中で紙メディアはどんなことができるのか、どう使うと効果的なのかを考える。その上でKPIとなる指標を適切に設定し、紙メディアを利用したマーケティング施策を実施する。こうして効果測定を行うと紙メディアが相当のROIを生むということが世界中で明らかになりつつある。当然日本でも動きが出始めている。

デジタル印刷機、特にインクジェット機が高速化・大サイズ化の方向で進化しているのは、このような市場の動きを受けたものだと捉えている。従来のように小ロット多品種を追いかけるデバイスではない。PODの概念を変える必要がある。
当社ではPODという言葉は使わず、デジタル印刷もしくはデジタルプリンティングという言葉を使っている。営業の場面においてもPODという言葉がお客様のイメージを限定し、ビジネスの理解を妨げる足かせとなることがある。
図1は『多品種小ロット』と『多版メガロット』の違いを整理したものである。

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前者はサービス重視、後者はスケールを重視する。多品種小ロットは一言でいうと印刷ショップのようなビジネスモデルである。印刷品目の多様性に対応し、受注型で件数重視となる。Web to Printの形態をとっても多品種小ロットモデルは、結局、印刷物の物売りになる。「欲しいときに欲しい量の印刷物を注文できればいい。あとは決済の仕組みをどうするか」というところに落ち着いてECのストアフロントがあれば成立する。
一方、多版メガロット系では、サービスドリブン、ビジネスドリブン、ソリューションドリブンでかなり専門的な対応が求められる。またトランザクション、データプリント系の対応となるので印刷枚数に対してのスケーラビリティの保障がかなり重要になってくる。ストアフロントのインターフェースよりもデータベース連携やAPIによるシステム連携が前提となる。システムへの要求仕様が変わったり印刷枚数のスケールアップに対して柔軟に対応できることを担保した上でのシステム設計が必須である。
そういう意味ではJDFのような標準フォーマットによるシステム連携や自動化の考え方はこれからさらに重要になってくるし、カラーマネージメント、品質管理も大事になってくる。高速でセキュアなネットワークインフラも欠かせない。

さらに、お客様との取引形態は従来の製造請負型の受発注ではなく、連携サービスを前提として事前にサービス品質を担保する契約を結ぶという形となりSLAが要求される。「どのタイミングでどんなコンテンツをどのようなデータ形式にする。そして、印刷物の製造プロセスはどうであって品質の担保はこのように行う。データが流れてから印刷物の完成までは何時間で、どのような形で郵便局に投函される」というレベルまで契約内容に盛り込まれる。

営業担当者が校了データを受け取ってファイルを開いてみたら問題があって、そのままでは出力できなかったというようなことは100%起こり得ない。言い換えると、起こらないようにとことん条件を詰めてSLAの契約を結ぶ。
お客様のITと印刷物を結びつけるような新しいビジネスやサービスの提案をするときには印刷の技術知識や運用ノウハウだけでは説得力のある提案はできない。印刷という範囲にとどまらないサービス全体のグランドデザインを示し、そのビジネスモデルに対する現実的な収益収支計画を提示する必要がある。それができないと結局、一枚単価がいくらになるという話で終わってしまう。
(その3につづく)


pageカンファレンス「価値をつくる自動化」を深く理解するための予備知識
その1 PODの功罪-デジタル印刷で儲けるために